そのためにいるんだと思います
炎の向こう。
大柄な男が、ゆっくりと歩いてくる。
肩に担いだ巨大なメイス。
炎に照らされたその顔には。
楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「おいおい」
男が三人を見る。
「三人も残ってんのかよ」
「…………」
シオンが一歩前へ出た。
アルトとルールーを庇うように《穿雫》を構える。
「あなたが、この火を?」
「ああ?」
男が周囲を見る。
「ああ、これか」
燃え上がる木々を見て。
笑った。
「綺麗だろ?」
「…………」
ルールーの表情が強張る。
「森が……」
「ん?」
「燃えてます……」
「見りゃ分かるだろ」
「そうじゃなくて……!」
ルールーが珍しく声を強めた。
「ここには魔獣も、精霊もいるんですよ!」
「だから?」
「……!」
男は興味なさそうにメイスを肩へ戻した。
「燃えるもんがあるから燃やした。それだけだ」
「…………」
アルトが男を見つめる。
先ほど見つけた魔獣の死骸。
怯えていた魔獣達。
我が子を守ろうとしていた親の姿。
それが頭をよぎった。
「もしかして……」
アルトの声が低くなる。
「あの魔獣達を殺したのも、お前?」
「あ?」
「途中にいっぱい死んでた」
「さあな」
男は少し考え。
「あー……何匹かぶっ飛ばした気はするな」
「…………」
「邪魔だったからよ」
アルトが《砕》を握る手に力を込めた。
「アルト君」
シオンの声。
「……はい」
「冷静に」
「分かってます」
シオンは男から視線を外さない。
「ルールー」
「は、はい」
「火を抑えられますか?」
「や、やってみます」
ルールーが両手を前へ出す。
水が集まり始める。
それを見て。
男の眉が動いた。
「へぇ」
ニヤリ。
「水か」
男がメイスを地面へ下ろす。
ズンッ!
「だったらちょうどいい」
「……?」
ルールーが男を見る。
「消してみろよ」
男がメイスを持ち上げる。
「俺の火をよ!」
振り下ろす。
ドゴォン!
「っ!?」
メイスが地面を叩いた瞬間。
爆発。
炎が一気に膨れ上がった。
「ルールー!」
アルトが叫ぶ。
「きゃっ!」
シオンが前へ出る。
「《穿雫》!」
ランスを薙ぐ。
水が広がり、迫る炎を受け止めた。
ジュウウウウッ!
大量の蒸気が立ち上る。
「アルト君、ルールー!」
「はい!」
「は、はい!」
「下がって!」
三人が距離を取る。
「ハハハッ!」
蒸気の向こう。
男の笑い声。
「いいねぇ!」
ズン。
大きな足音。
「水使いが二人か!」
シオンの目が細くなる。
「……ルールー」
「はい?」
「火を消すことに集中できますか?」
「え……」
ルールーが燃え広がる森を見る。
炎は今も。
少しずつ範囲を広げている。
「このままでは被害が広がります」
「…………」
ルールーは唇を結んだ。
そして。
「できます」
小さく。
でも、はっきり答えた。
「私が消します」
「お願いします」
ルールーが炎へ向き直る。
両手を広げ。
「《澪標》」
足元から水が広がっていく。
炎の位置。
燃え広がっている方向。
その全てを探る。
「…………」
男がそれを見る。
「俺を無視してんじゃ――」
「させません」
シオンが《穿雫》を向けた。
「あ?」
「あなたの相手は私が――」
そこで。
「シオンさん」
アルトが隣へ並ぶ。
「俺もいます」
「アルト君」
《砕》を構える。
「二人なら早く倒せます」
「…………」
シオンが男を見る。
ルールーを守りながら。
この男を止める。
そう判断しかけた。
だが。
「……違います」
ルールーが呟いた。
「え?」
アルトが振り返る。
ルールーは《澪標》を使ったまま。
森の奥を見つめていた。
「火が……」
「火?」
「ここだけじゃありません」
ルールーの顔から血の気が引く。
「向こうにも……」
さらに遠く。
「もっと先にも……!」
シオンの表情が変わる。
男が。
ニヤリと笑った。
「気づいたか」
「…………!」
「ここだけだと思ったか?」
ルールーが炎の向こうを見る。
「このままだと……」
広がる。
森のさらに奥へ。
魔獣達が逃げた方向へ。
「シオン隊長」
ルールーが振り返った。
「私、行きます」
「ルールー?」
「向こうの火も消さないと」
「ですが、一人では――」
「大丈夫です」
声は震えている。
それでも。
ルールーは男を見て。
そして燃える森を見た。
「私、水属性ですから」
ぎゅっと拳を握る。
「こういう時のために、いるんだと思います」
シオンは。
その顔を見つめた。




