嵐の前②
アーヴェルは机の上へ二枚の書類を並べた。
「まず、護衛班だ。」
向かいに立つレテは、静かに姿勢を正した。
アーヴェルは一枚目の書類へ視線を落とす。
「ログ・スミスマン。」
「優れた体術に加え、土属性による周囲へ被害を出しにくい戦闘ができる。」
「固有術と魔器の相性もいい。」
「それに、あの巨躯は護衛対象へ安心を与え、敵には十分な威圧となる。」
レテは小さく頷いた。
口より先に手が出るところはある。
だが、ログの戦闘能力は本物だ。
護衛対象の前に立つだけでも、十分な壁になるだろう。
アーヴェルは続いて、隣の書類へ目を移した。
「レテ・オーズィラ。」
「はい。」
「攻守の均衡が取れており、判断力にも優れる。」
「冷静で、状況に応じた柔軟な対応ができる。」
「緊急時には、固有術による治癒も使える。」
レテは改めて背筋を伸ばした。
「そして……私だ。」
「……隊長が?」
思わず目を見開く。
アーヴェルがゆっくりと顔を上げた。
「何か問題か。」
「いえ。」
レテはすぐに首を振った。
「“鉄城”の異名を持つ隊長は、護衛任務に最も適していると考えます。」
「なら問題ない。」
アーヴェルは淡々と答え、もう一枚の書類を手に取った。
「次に警戒班だ。」
「ヒルト・エルナー。」
「魔器の扱いに優れ、状況に応じて術式を追加できる固有術を持つ。」
「対応力の高いオールラウンダーだ。」
そのまま、次の名へ目を移す。
「フィリア・リーベ。」
「索敵能力に優れ、固有術も連絡役として相性がいい。」
「周辺の警戒と連絡役には適任だろう。」
アーヴェルは二人の名が記された書類を重ねた。
「そして、この二人に共通しているのは、前衛から距離を取った状態でも戦闘と支援が可能な点だ。」
そこまで聞いたところで、レテは何かに気づいた。
「それって……。」
「アルトも警戒班へ入れろとの指示だ。」
「アルトくんを?」
レテの表情が強張る。
「危険ではありませんか。」
「他部隊からも人員を出す。」
アーヴェルは即座に答えた。
「エルナーとリーベだけに任せるつもりはない。」
「ですが、もしアルトくんが……。」
「そのための二人だ。」
アーヴェルは書類へ指を置いた。
「アルトを前衛に置き、エルナーとリーベは距離を保ちながら監視と支援を行う。」
「異変があれば即座に対応できる。」
レテはしばらく黙り込んだ。
アルトに敵意は感じない。
だが、何者なのか分からないことに変わりはない。
「……承知しました。」
「それに。」
アーヴェルはわずかに間を置いた。
「今回は、スパーナの防衛大臣の護衛として奴も来る。」
「奴……?」
レテは首を傾げる。
次の瞬間。
アーヴェルの言葉の意味に気づき、目を見開いた。
「…………えっ。」
「まさか……。」
「そのまさかだ。」
アーヴェルは書類を閉じる。
「セリオが戻る。」
◇
「――というわけで、今後は第一班全体でアルトくんの監視を行います。」
レテの言葉に、部屋の視線が一斉にアルトへ集まった。
アルトはよく分かっていない様子で首を傾げている。
「第一班?」
「はい。」
レテは小さく息を吐くと、一同を見回した。
「それと、三日後に行われる任務の班分けを発表します。」
先ほどまで騒がしかった室内が、少しだけ静かになる。
「まず、護衛班。」
レテは指を一本立てた。
「アーヴェル・クロイツ隊長。」
「ログ・スミスマン。」
「そして、私。レテ・オーズィラです。」
ログが腕を組む。
「俺は護衛か。」
「はい。」
「国賓であるスパーナ防衛大臣と、我が国の軍事局長による会談の護衛にあたります。」
「次に警戒班。」
レテはヒルトたちへ視線を向けた。
「ヒルト・エルナー。」
「ふぁい…。」
ヒルトが魂が抜けた状態で返事をする。
「フィリア・リーベ。」
「はーい。」
フィリアは椅子へ座ったまま、気の抜けた返事をした。
そして最後に、レテはアルトを見る。
「それから……アルトくん。」
「俺も?」
「はい。」
アルトは少し驚いたように目を瞬かせる。
「三人には、軍事局周辺の警戒にあたってもらいます。」
「何をすればいいんだ?」
「周囲に異変がないか見回り、何かあればすぐにヒルトさんかフィリアさんへ伝えてください。」
「戦ってもいいのか?」
「勝手に戦わないでください。」
「分かった。」
あまりにも素直な返事に、レテはかえって不安を覚えた。
「本当に分かっていますか?」
「勝手に戦わない。」
「……必ず守ってくださいね。」
「守る。」
アルトは真剣な顔で頷いた。
その横で、ヒルトが小さく手を挙げる。
「え!……僕たちだけアルトの監視するの⁈」
「いいえ。他部隊からも人員が配置されます。」
「えぇ、でもぉ……。」
ヒルトは不安そうにアルト見ながら呟く
「よろしくな!」
そんなヒルトとは裏腹に楽しそうなアルト
「そんなに心配しなくても大丈夫でしょ。」
フィリアが欠伸をしながら言う。
「何かあっても、アルトが前で全部倒してくれるって。」
「だから勝手に戦わせないでください。」
「はーい。」
まったく反省していない返事だった。
レテはこめかみを押さえる。
そのとき、アルトが不思議そうに尋ねた。
「スパーナの防衛大臣って、強いのか?」
「強さは関係ありません。」
「スパーナからの護衛は?」
ログは話を遮るように聞く
「一人だけ…。」
「1人?誰が来るんだ?」
ログの問いに、レテは少しだけ表情を引き締めた。
「クロイツ隊第二班。」
室内の空気がわずかに変わる。
レテは静かにその名を告げた。
「ガイスト最強の精霊術師。」
「セリオさんが帰ってきます。」




