弱ぇよ。
パンッ!
弾丸がまた、ラグナの横を抜けた。
「だから当たってねぇって!」
ラグナが笑う。
ヒルトは何も返さない。
ただ、左の《ツインコード》を下ろし。
少しだけ後ろへ下がる。
一歩。
二歩。
「逃げんのか?」
「…………」
「遅ぇよ!」
ラグナが一気に距離を詰めた。
鎖が鳴る。
鉄杭が横薙ぎに振るわれる。
「っ……!」
ヒルトは身体を沈める。
避けきれない。
鉄杭が左肩を掠めた。
「《重圧》」
ズンッ。
「ぐっ……!」
今度は左肩。
身体が大きく傾く。
ヒルトは堪えきれず、その場に膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
「終わりだな」
ラグナが鉄杭を引きずりながら歩いてくる。
「随分しぶとかったじゃねぇか」
「…………」
「けど、もう分かった」
ヒルトは顔を上げる。
「お前、弱ぇよ」
「……そうだね」
「あ?」
「否定はしないよ」
ラグナの口元が歪む。
「銃は当たらねぇ」
一歩。
「ナイフも当たらねぇ」
また一歩。
「変な玉も当たらねぇ」
「…………」
「頼みの術式も、一発速くするだけ」
「…………」
「それで俺に勝てると思ってたのか?」
ヒルトは何も答えない。
ただ。
ラグナの後ろを見る。
木に刺さった弾丸。
地面へ突き立ったナイフ。
岩陰へ転がった手榴弾型魔器。
草むら。
木の根元。
少し離れた地面。
至るところに。
戦いの中で撒かれたものが残っていた。
「なんだ?」
ラグナが眉をひそめる。
「さっきからどこ見てやがる」
「別に」
「ハッ」
ラグナが鼻で笑う。
「逃げ道でも探してんのか?」
「…………」
ヒルトはゆっくり立ち上がる。
だが。
立っただけだった。
足元はふらついている。
右腕はまだ上がらない。
左肩も重い。
呼吸も整わない。
ラグナから見れば。
もう勝負は終わっていた。
「悪ぃな」
ラグナが鉄杭を持ち上げる。
「俺、弱ぇ奴いたぶる趣味はねぇんだ」
「……そう」
「だから一発で終わらせてやるよ」
「優しいんだね」
「今さら媚びても遅ぇよ」
ヒルトは少しだけ笑った。
「媚びてないよ」
「…………」
ラグナが足を止める。
「なんだ、その顔」
「ん?」
「さっきまで死にそうだったくせに」
「今も死にそうだよ」
「じゃあ笑ってんじゃねぇ」
「ごめん」
ヒルトは《ツインコード》を下ろした。
「でも」
「……あ?」
ラグナが鉄杭を振り上げる。
ヒルトは真正面から、その姿を見る。
「お前……僕より強いよ」
「…………」
一瞬。
ラグナが目を丸くした。
そして。
「ハッ!」
大きく笑う。
「あぁ!」
鉄杭をさらに高く掲げる。
「だからお前は死ぬん――」
「でも」
ヒルトの声が遮った。
ラグナの笑みが止まる。
ヒルトの目が細くなる。
「お前は僕に勝てない」
「……は?」
次の瞬間。
カッ――!
「……!」
ラグナの背後。
木へ刺さっていたナイフが光った。
「なんだ?」
さらに。
地面。
カッ。
岩陰。
カッ。
草むら。
カッ。
「な……」
一つ。
また一つ。
今まで何の意味もなかったはずの魔器が、次々と淡い光を放ち始める。
「なんだ、これ……!」
ラグナが振り返る。
その足元。
先ほどヒルトが外したナイフ。
「――《拘束》」
「なっ!?」
淡い光が弾けた。
術式がラグナの右脚へ絡みつく。
「ぐっ!」
体勢が崩れる。
「こんなもん!」
ラグナが力任せに引きちぎろうとする。
だが。
「――《強化》」
「……!」
拘束が一気に強まった。
「なっ……」
ラグナの目が見開かれる。
「二つ……?」
ヒルトは答えない。
次。
「――《遅延》、解除」
岩陰に転がっていた手榴弾型魔器。
カッ。
「!」
バンッ!
「ぐぁっ!」
衝撃が横から叩き込まれた。
ラグナの身体が大きくよろめく。
「なんで……!」
さらに。
「《加速》」
木へ刺さっていた弾丸が、術式と共に弾ける。
「っ!」
ラグナが鉄杭を振るう。
ギィン!
なんとか弾く。
だが。
その腕へ。
「《拘束》」
「ぐっ!」
別のナイフから伸びた術式が絡みついた。
「てめぇ!」
ラグナが吠える。
「銃にしか使えねぇんじゃなかったのか!」
「そんなこと言った?」
「……!」
「《ツインコード》に組み込めるとは言ったけど」
ヒルトがゆっくり銃口を上げる。
「他の魔器には無理だなんて、言ってないよ」
「この……!」
「それに」
ヒルトの《ツインコード》が淡く光る。
今まで見せていた術式。
その隣に。
もう一つ。
「……は?」
ラグナの顔が引きつる。
「二つ……?」
「うん」
「一つだけって……!」
「嘘だよ」
「てめぇぇぇ!」
ラグナが咆哮する。
ヒルトは静かに息を吐いた。
「お前の方が速い」
一歩。
「力も強い」
さらに一歩。
「固有術も厄介」
ラグナが拘束を引きちぎろうともがく。
「真正面からやったら、たぶん僕が負ける」
「だったら――!」
「だから」
ヒルトが周囲を見る。
森の至るところ。
弾丸。
ナイフ。
手榴弾型魔器。
淡い術式の光が、ラグナを囲むように瞬いている。
「真正面から戦うの、最初からやめてたんだ」
「…………!」
ラグナの顔から。
完全に笑みが消えた。
ヒルトは二丁の《ツインコード》を構える。
「これで」
指が引き金にかかる。
「終わりだよ」
次の瞬間。
森中に散らばった術式が、一斉に輝いた。




