二発ボコす
「フルケ」
「あ?」
「今、自分の契約精霊に何と言いました?」
「……別に。ちょっと喝入れただけだろ」
「張り倒す、と聞こえましたが」
「言っただけだって。実際にやるわけじゃねぇよ」
「そういう問題ではありません」
シオンの声は変わらない。
怒鳴っているわけでもない。
それでも、ゼンは僅かに口を噤んだ。
「精霊はあなたの道具ではありません」
「……分かってるよ」
「分かっている人間の言動には見えません」
「…………」
「それと」
シオンの視線がアルトへ移る。
「アルト君」
「は、はい!」
「あなたもです」
「俺も!?」
「挑発に乗らないように」
「でも、こいつ自分の精霊に――」
「アルト君」
「…………はい」
アルトは不満そうに口を閉じた。
それでも、ゼンの後ろに隠れているズィールが気になる。
怖がられている。
けれど。
昨日までとは、少しだけ受け取り方が違った。
(嫌われてるって、決まったわけじゃないんだよな……)
いつか。
この精霊にも怖がられずに近づけるようになれたら。
そんなことを考えていると。
「フィリア・リーベ」
「はい!」
突然名前を呼ばれ、フィリアが姿勢を正した。
「アーヴェル隊長から話は聞いています」
「……!」
「今回の任務への参加を許可します」
「ありがとうございます!」
「ただし」
シオンはフィリアを真っ直ぐ見る。
「これはヒルト・エルナーを追うための任務ではありません」
「…………」
フィリアの表情が僅かに強張った。
「我々の目的は、リヒト・エルナーの捜索です」
「……はい」
「あなたが参加を希望した理由も聞いています」
「…………」
「ヒルト・エルナーを発見しても、勝手な行動は取らないこと」
「……はい」
「返事が遅いですね」
「はい!」
その横でアルトが首を傾げた。
「ヒルト?」
「……あ」
フィリアがアルトを見る。
「ヒルトも来るの?」
「…………」
「フィリア?」
「それは……」
「後で説明します」
シオンが二人の会話を遮った。
「今は任務の確認を優先します」
「……はい」
アルトは気になりながらも頷いた。
シオンは近くにあった木箱へ歩み寄ると、懐から折り畳まれた地図を取り出した。
それを広げる。
「今回の捜索対象は――リヒト・エルナー」
フィリアの表情が引き締まる。
アルトも地図を覗き込んだ。
「五年前に消息を絶ち、現在まで所在不明」
シオンの指が地図の上を滑る。
「しかし先日のヴォルグ潜入時、アルト君が本人と思われる人物を目撃しています」
「こいつが?」
ゼンがアルトを見る。
「うん」
アルトは頷いた。
「直接話したわけじゃないけど……多分、間違いないと思う」
脳裏に蘇る。
凍りついた部屋。
ライとの出会い。
そして、あの場所にいたヒルトによく似た男。
「その情報を基に軍事局で周辺の動向を調べた結果――」
シオンの指が、地図の一点で止まった。
「リヒト・エルナー本人である可能性が高い人物の目撃情報が見つかりました」
「……!」
フィリアが身を乗り出す。
「どこですか!?」
「落ち着いてください」
「あ……すみません」
「まだ本人と確定したわけではありません」
フィリアは地図を見つめた。
リヒトがいるかもしれない。
なら。
ヒルトもきっと――。
「…………」
昨日の背中を思い出す。
自分を突き放して、一人で丘を下っていったヒルト。
(バカヒール……)
ちゃんと寝てるの。
ちゃんと食べてるの。
怪我だって治ったばっかりなのに。
考えれば考えるほど、腹が立ってくる。
フィリアは拳をぎゅっと握った。
(見つけたら……)
一発。
(いや、二発ボコす)
そう心に決めた。




