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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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黙りなさい

「――そこまでにしてください」


 静かな声が、早朝の空気を切った。


 ゼンの手が止まる。


「あ?」


 フィリアも声のした方へ目を向けた。


 朝靄の向こうから、数人の人影が歩いてくる。


 その先頭に立つ男は、真っ直ぐゼンを見据えていた。


「ゼン・フルケ」


「……隊長」


「遅刻しなかったことは評価します」


 淡々とした口調。


「ですが――素行に問題がありすぎる」


 シオン・アズレイ。


 今回のリヒト・エルナー捜索任務を率いる隊長だった。


「も、も、もうちょっと声を抑えてくださいぃぃぃ……!」


 そのすぐ後ろから、消え入りそうな声が聞こえてくる。


 黒髪を三つ編みにした、水色の瞳の女性。


 身体を小さく縮こまらせるようにして、周囲を気にしている。


 シオン隊副官。


 ルールー・マリシャ。


「こんな朝早くから喧嘩なんてしたら、み、皆さん起きちゃいますからぁ……」


 シオンはちらりとルールーを見る。


「すみません」


「い、いえ! 隊長が謝ることでは……!」


 その後ろから、もう一人。


「……フィリア?」


「……え?」


 今度はフィリアが聞き覚えのある声に目を見開いた。


「アルト!?」


「やっぱりフィリアだ!」


 アルトが駆け寄ってくる。


「なんで!?」


「俺、今入隊試験中で……」


 アルトはシオンの方を指差した。


「今日の任務に参加するのが最終試験なんだ」


「え……」


 フィリアは驚いた。


 昨日、アーヴェルへ無理を言って参加させてもらったリヒト捜索任務。


 まさかアルトまで同じ任務へ参加するとは思っていなかった。


「フィリアこそ、なんでここに?」


「私は……」


「おい!」


 ゼンの声が割って入った。


「隊長! なんなんだよ、こいつら!」


「フ、フルケ君……!」


 ルールーがおずおずと手を上げる。


「隊長には、ちゃんと敬語を……」


「あ?」


 ゼンが睨む。


「なんだよ?」


「えっ」


 ルールーの肩が跳ねた。


「え、あ、その……」


 目が泳ぐ。


「け、敬語を……その……使った方が……」


「聞こえねぇよ」


「え、あ、え……」


「おい」


 今度はアルトの声だった。


「あ?」


 ゼンがアルトを睨みつける。


「んだよ? てめぇ」


 アルトは一歩前へ出た。


「俺はアルト」


「今日、試験でこの任務に参加させてもらう」


「……あ?」


 ゼンは頭の先から足元までアルトを眺めた。


「テメェが?」


「そうだけど」


「こんなガキが入隊試験――」


 言いかけた、その時だった。


「…………?」


 ゼンの眉が寄る。


 自分のすぐ傍ら。


 淡い光を纏う一羽の鳥がいた。


 鋭い嘴。


 大きく広がる翼。


 トンビの姿をした契約精霊――ズィール。


 だが。


「……おい」


 様子がおかしい。


 ズィールは翼を小さく畳み、ゼンの後ろへ隠れるように身を縮めている。


 その身体が、僅かに震えていた。


「ズィール……?」


 ゼンが怪訝そうに顔を歪める。


「なんだそりゃ?」


 ズィールの視線の先。


 そこには――アルトがいた。


「…………」


 アルトも気づいた。


 まただ。


 精霊が、自分を怖がっている。


 昨日ミレイアに言われたことが、頭を過ぎる。


『君の存在を感じた瞬間、考えるより先に、身体が逃げようとしてる』


 ズィールが、さらにゼンの背後へ身を寄せる。


「おい!」


 苛立ったゼンが声を荒らげた。


「ズィール!」


 精霊の身体がびくりと震える。


「何ビビってんだよ!」


「…………」


「腑抜けてんじゃねぇ!」


 ゼンが苛立たしげに吐き捨てる。


「張り倒すぞ!」


「……!」


 アルトの表情が変わった。


「お前……」


 一歩。


 ゼンへ近づく。


「自分の精霊に――」


「黙りなさい」


 シオンの声が落ちた。


「…………」


 一瞬だった。


 誰も喋らない。


 ゼンも。


 アルトも。


 フィリアも。


 怯えていたルールーさえ、口を閉じる。


 先ほどまで騒がしかった出発地点が、嘘のように静まり返った。


 朝の冷たい風が吹き抜ける音だけが聞こえる。


 シオンは一同をゆっくりと見渡した。


 その視線が最後に――ゼンで止まった。

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