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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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211/497

あんたは何?

          ◇


         翌日・早朝――


「バカヒール……見つけたら絶対ボコす……」


 まだ朝日も昇りきっていない任務の出発地点。


 そこには、一人の少女が立っていた。


 フィリア・リーベ。


 昨日、ヒルトを止められなかった彼女は、アーヴェルへ無理を言ってリヒト・エルナー捜索任務へ割り込ませてもらっていた。


「人にあんなこと言っといて……一人で行くとか……」


 ぶつぶつと文句を言いながら、腕を組む。


 その姿は、普段のフィリアとは少し違っていた。


 いつもの軍服ではない。


 身につけているのは、黒を基調とした軽装。


 動きを邪魔しない薄手の素材で作られており、身体を動かしてもほとんど衣擦れの音がしない。


 上着の襟は高く、引き上げれば口元まで覆えるようになっている。


 短弓《遠音》を携えたその姿は、正面から敵とぶつかる兵士というより、隠密行動を想定した装いだった。


「…………」


 フィリアは辺りを見回す。


 まだ他の隊員は来ていない。


「早く来すぎたかなぁ……」


 その時だった。


「あ?」


 背後から声がする。


「フィリアじゃねぇーか?」


「…………」


 フィリアの眉がぴくりと動いた。


 知っている声だった。


 できれば、二度と聞きたくなかった声でもある。


「お前が今日、試験を受けるってやつか?」


 フィリアがゆっくりと振り返る。


 人を馬鹿にするような茶色の瞳。


 金色の髪は、周囲を威嚇するかのように逆立てられている。


 その顔を忘れるはずがなかった。


 ――ゼン・フルケ。


 アカデミア時代の同期だ。


「……あんた、ここの隊だったんだ」


 思わず声が低くなる。


 私は、こいつが大嫌いだ。


 アカデミア時代、何度断ってもしつこくデートに誘ってきた。


 それだけなら、まだよかった。


 何より許せなかったのは――


 ヒルトをいじめていたこと。


「おいおい。来るならそう言ってくれよ」


 ゼンが馴れ馴れしく近づいてくる。


 フィリアは即座に一歩下がった。


「近づかないで」


「あ?」


「あんたのこと、許してないから」


「……あー?」


 ゼンは少し考えるように首を傾げ――鼻で笑った。


「ああ、お前確か、あの雑魚と同じ隊だったよな?」


「…………」


 フィリアの目つきが変わる。


「今回はあいつの兄貴の捜索だろ?」


 ゼンは面倒そうに頭を掻いた。


「くそめんどくせぇ……」


 大きな欠伸を一つ。


「どうせどっかで、のたれ死んでるだろうによぉ」


「黙れ」


「あ?」


「黙れって言ったの」


 いつもの明るい声ではなかった。


 ゼンは一瞬フィリアを見た後、にやりと笑った。


「おいおい、怖い顔するなよ」


「事実だろ?」


 肩をすくめる。


「五年前に一度、国から季節をなくした奴だぞ?」


「…………」


「生きてたところで、ろくなもんじゃねぇだろ」


 フィリアの拳が握られる。


「そういや――」


 ゼンが何か思い出したように笑った。


「あの雑魚もいなくなったらしいなぁ!」


「……!」


「はっ! せいせいするなぁ!」


「…………」


「兄貴探しにでも行ったのか? 兄弟揃って――」


「ねぇ」


 フィリアが遮った。


「あ?」


「さっきから雑魚、雑魚って言ってるけどさ」


 フィリアはゼンを真っ直ぐ見る。


「あんた――」


 口元だけで笑った。


「ヒルトに負けたじゃん」


「……!」


 ゼンの顔が引きつる。


「…………てめぇ」


「あれ? 忘れた?」


「黙れ」


「アカデミアの時、あんなに馬鹿にしてたヒルトに負けたよね?」


「黙れっつってんだろ!」


「じゃあ、ヒルトが雑魚なら――」


 フィリアが首を傾げる。


「あんたは何?」


「てめぇ!」


 ゼンの手が伸びる。


 フィリアの胸ぐらを掴もうとした、その瞬間。


「――そこまでにしてください」


 静かな声が響いた。


 ゼンの手が止まる。


「……あ?」


 フィリアも声のした方へ目を向けた。


 朝靄の向こうから、こちらへ歩いてくる3人の人影があった。

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