↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
208/473

正しい判断

 ヒルトは何も答えなかった。


 ただ一度だけ拳を強く握り。


 そのまま丘を下っていった。


「…………」


 フィリアは林檎の木の下に立ったまま、遠ざかっていくヒルトの背中を見つめていた。


 追いかけたい。


 今すぐ走って。


 腕を掴んで。


 もう一度、馬鹿と言ってやりたい。


 《天翔け》を使えば、すぐに追いつける。


「……ヒール」


 名前を呼ぶ。


 けれど、ヒルトは振り返らない。


 その姿が少しずつ小さくなっていく。


「…………」


 フィリアは一歩、踏み出した。


 だが。


 その足を止める。


「……ダメ」


 感情のまま追いかけて、それからどうする。


 ヒルトはリヒトを探すと言った。


 けれど、居場所は分からない。


 行き先も分からない。


 何の手掛かりを持っているのかすら分からない。


 そんなヒルトについて行けば、自分まで当てもなく彷徨うことになる。


「私まで馬鹿やったら……誰がヒール止めるのよ」


 フィリアは袖で目元を乱暴に拭った。


「……ほんっと、ムカつく」


 嘘つき。


 臆病者。


 関係ない。


 消えてくれ。


 もう同僚じゃない。


 言われた言葉を思い出すたび、胸が痛む。


「あんな言い方したら、私が泣いて帰るとでも思ったの?」


 フィリアは鼻をすすった。


「舐めんなって言ったでしょ」


 もう一度、ヒルトが消えていった方向を見る。


 追わない。


 追いたいけれど、追わない。


 今やるべきことは別にある。


「……隊長に報告」


 アーヴェルなら動ける。


 軍なら情報を集められる。


 少なくとも、何の当てもなくヒルトの後ろをついていくよりはずっといい。


「待ってろよ、バカヒール」


 フィリアは踵を返した。


「《天翔け》!」


 風が身体を包み込む。


 ふわりと身体が浮かび上がり、そのまま丘を飛び出した。


          ◇


 勢いよく廊下へ着地する。


 そのままフィリアはアーヴェルの執務室へ向かって駆けた。


「隊長!」


 扉を叩く。


「リーベか。入れ」


「失礼します!」


 扉を開けると、アーヴェルは先ほどとほとんど同じ場所に立っていた。


「……どうだった」


 フィリアは一瞬だけ俯いた。


「ヒルト、見つけました」


「そうか」


「アカデミアの裏の丘にいました」


 アーヴェルの眉が僅かに動く。


「戻るよう言ったか?」


「はい」


「……それで?」


 フィリアは唇を噛んだ。


「ダメでした」


「…………」


「兄さんを追うって」


「そうか……」


 アーヴェルは目を閉じ、深く息を吐いた。


「今は?」


「分かりません。丘を下りて、そのまま行きました」


「なぜ追わなかった」


 責めるような声ではなかった。


 フィリアは真っ直ぐアーヴェルを見る。


「追いかけようとは思いました」


「でも、ヒルトはリヒトさんの居場所を知りません」


「どこへ向かうのかも分からない」


「私まで一緒について行ったら、ただ二人で当てもなく探し回るだけです」


 アーヴェルは黙って聞いている。


「だったら、隊長に報告した方がいいと思いました」


「軍なら情報を集められます」


「ヒルト一人より、絶対に早く見つけられる」


「だから戻ってきました」


 しばらく沈黙が流れた。


 やがて。


「……正しい判断だ」


 アーヴェルが静かに答えた。


「え……」


「よく戻った、リーベ」


 フィリアは僅かに目を見開く。


 褒められるとは思っていなかった。


「隊長……」


 アーヴェルはすぐに机へ向かい、置かれていた資料へ手を伸ばす。


「エルナーのことはこちらでも追う」


「はい」


「お前は今日は戻れ。復帰初日だ」


「…………」


「リーベ?」


 フィリアは動かなかった。


 俯いたまま、拳を握る。


「……隊長」


「なんだ」


 フィリアが顔を上げた。


「私にも、できることありますよね?」


 いつもの明るい笑顔はなかった。


「ヒールを連れ戻したいんです」


 真っ直ぐな瞳で、アーヴェルを見つめる。


「だから……何かあったら、私にもやらせてください」


 アーヴェルはしばらくフィリアを見つめた。


 そして。


「……分かった」


 短く答えた。


「今は休め」


「はい!」


 フィリアは敬礼する。


「失礼します!」


 扉へ向かい――その前で一度だけ振り返った。


「隊長」


「なんだ」


「絶対、連れ戻しましょうね」


「……ああ」


 その返事を聞いて。


 今度こそフィリアは、執務室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。