行かせるもんか
「…………え?」
フィリアの笑顔が、ゆっくりと消えていった。
「……ヒールが?」
「ああ」
アーヴェルは窓の外へ目を向けたまま、低く答えた。
「どうして……」
「リヒトの目撃情報を知った」
「兄さんの……?」
「ヴォルグで、アルトがそれらしき人物を見ている」
ヒルトがここ数日、何かを考え込んでいた理由。
先ほど見せた、苦しそうな表情。
全てが繋がった。
「それで、一人で追いかけるって……?」
「ああ」
「どこへ行くか、分かってるんですか?」
「分からん」
「だったら、まだ近くにいるかもしれない」
フィリアはすぐに扉へ向き直った。
「待て、リーベ」
背後から声が飛ぶ。
フィリアの手が、扉の前で止まる。
「追ってどうする」
「止めます」
「今のエルナーが、お前の言葉を聞くと思うか?」
「分かりません」
フィリアは振り返らない。
「でも、何も言わないまま行かせるなんてできません」
「リーベ」
「ヒールは、私を助けてくれました」
カイルとの戦い。
自分を庇い、傷つきながらも立ち続けたヒルトの姿が浮かぶ。
「だから今度は、私が止めます」
アーヴェルはしばらく黙っていた。
「……無茶はするな」
「はい!」
「見つけたら、必ず戻るよう説得しろ」
「任せてください!」
フィリアは扉を開け、廊下へ飛び出した。
先ほどまで聞こえていた足音は、もうない。
「ヒール……」
どこへ向かったのか。
何を手掛かりにするつもりなのか。
何も分からない。
それでも。
「一人で行かせるもんか」
フィリアは窓を開けた。
「《天翔け》!」
風が身体を包む。
次の瞬間、フィリアは本部の外へ飛び出した




