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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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大復活‼︎

 鳴り止まない拍手の中、アルトは照れくさそうに頭を掻いた。


「これで俺も、精霊術師になれるんですね!」


 喜びを隠しきれないアルトに、ノアは眠たげな赤い瞳を向ける。


「……まだ、気が早いですよ」


「え?」


 アルトの笑顔が止まった。


「隊長たちによる試験は、まだ終わっていません」


「まだあるんですか?」


「ええ。次が最終試験です」


「最終試験……!」


 アルトが身を乗り出すと、全身の傷が痛んだのか、すぐに顔を歪めた。


「いってて……」


「まずは治療を受けてください」


「は、はい……」


 ノアは軍服の内側から、一枚の資料を取り出した。


「最終試験は七日後。早朝に出発します」


「七日後……」


「遠出になる可能性があります。必要な支度を済ませておいてください」


 アルトは首を傾げる。


「どこへ行くんですか?」


「まだ分かりません」


「え?」


「現在、各地から寄せられている情報を精査しています。状況次第で、向かう場所が変わりますから」


 ノアは手にした資料へ目を落とす。


「あなたには、実際の任務へ参加してもらいます」


「本当の任務……!」


 痛みも忘れたように、アルトの目が輝いた。


「一人で行くんですか?」


「まさか」


 ノアは静かに首を横へ振る。


「シオン・アズレイ隊長が同行します」


「シオン……?」


 聞き覚えのない名前に、アルトは首を傾げた。


「知らないです」


「当然でしょうねぇ。彼は捜査や追跡を伴う任務へ出ることが多く、あなたとは接点がありませんでしたから」


「どんな人なんですか?」


「若いですが、非常に優秀な隊長です」


「へぇ……」


 アルトは初めて会う隊長の姿を想像するように、宙へ目を向けた。


「それで、何の任務なんですか?」


 ノアはすぐには答えなかった。


 手元の資料を見つめたまま、僅かな沈黙を置く。


 やがて、その紙をアルトへ差し出した。


「こちらです」


 アルトは両手で資料を受け取る。


 そこへ記された文字を目で追い――表情を強張らせた。


「……リヒト・エルナー捜索任務」


          ◇


         六日後


 軍事局に併設された医務室。


「フィリアちゃん、大復活!」


 フィリアは勢いよく両手を掲げた。


「はい! 拍手ー!」


「「「おー!」」」


 レテ、ログ、ユノの三人が、言われるままに手を叩く。


 ぱちぱちぱち。


 満足そうに胸を張ったフィリアは、その場でくるりと一回転した。


「いやぁ、やっぱり元気が一番!」


 傷痕こそまだ残っているものの、痛みはほとんどない。


 日常生活を送る分には問題ないところまで回復していた。


「ユノのおかげだね!」


 フィリアが笑顔を向けると、ユノは少し照れたように頬を掻いた。


「いえ。僕は《暖脈》で回復を早めただけですから」


「それでも助かったよ!」


「ですが、まだ完全に元通りというわけではありません」


 ユノは念を押すように続けた。


「無理はしないでくださいね」


「んー!」


 フィリアは満面の笑みを浮かべ、ユノの肩を軽く叩く。


「いい後輩だ!」


「ありがとうございます……?」


 なぜ褒められたのか分からず、ユノは困ったように笑った。


「さて!」


 フィリアは勢いよく振り返る。


「アーヴェル隊長のところに、復活したって報告してこよっと!」


 意気揚々と歩き出そうとして、ふと足を止めた。


「あれ?」


 医務室の中を見回す。


「ヒールは?」


 壁際で腕を組んでいたログが答えた。


「あいつなら先に行ったぞ」


「なにー!」


 フィリアは頬を膨らませる。


「待っててくれてもいいのに!」


「お前の支度が遅いからだろ」


「乙女の支度には時間が掛かるの!」


 フィリアは同意を求めるようにレテへ振り向いた。


「ねー、レテ!」


「え?」


 レテは少し遅れて顔を上げた。


 その表情は、どこか考え込んでいる。


「どうしたの?」


 フィリアが首を傾げると、レテは静かに口を開いた。


「……最近、ヒルトの様子がおかしくありませんでしたか?」


 医務室の空気が、僅かに変わった。


「ヒールが?」


 フィリアの頬から、少しだけ力が抜ける。


 ユノも思い当たることがあるのか、小さく頷いた。


「確かに……」


「ミレイアさんに術式の相談を受けてから、少し様子が違ったように思います」


「ミレイア……」


 フィリアの眉が僅かに動いた。


 ログは大したことではないと言いたげに、肩を竦める。


「また研究にでも付き合わされたんじゃねぇの?」


「それならいいんだけど……」


 フィリアは扉の方へ目を向けた。


 ヒルトが自分を守るために命を懸けた、あの戦い。


 目を覚ましてからは何度もそばへ来てくれた。


 けれど、ここ数日は確かに考え込んでいることが多かった。


「……とにかく!」


 フィリアは胸の奥に浮かんだ不安を振り払うように声を上げた。


「行ってくる!」


 勢いよく窓を開ける。


「《天翔け》!」


 風の霊素がフィリアの身体を包み込む。


 次の瞬間。


 ふわりと宙へ浮かび、そのまま開いた窓から外へ飛び出していった。


「あ、おい!」


 ログが慌てて窓へ駆け寄る。


「そんなことに術を使うなよ!」


 遠ざかっていくフィリアが、楽しそうに振り返った。


「だって、こっちの方が早いもーん!」


「退院したばっかりだろうが!」


 ログの怒鳴り声が、医務室の外まで響き渡る。


 ユノは困ったように笑い、レテは飛び去っていくフィリアを静かに見送った。


 けれど。


 胸の奥に残った小さな違和感だけは、どうしても消えてくれなかった。

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