どうやって勝ちます?
もちろん。流れを整理して、中編は「魔脈への葛藤」と「ノアが軍人としての答えを問い続ける」ことを軸にした。
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中編
訓練室中の血糸が、一斉に脈打った。
キィィィッ!!
血の蝙蝠が再び羽ばたく。
アルトは肩で息をしながら《砕》を構えた。
制服は裂け、腕や脚には無数の切り傷が刻まれている。
呼吸も乱れ、握る《砕》は鉛のように重かった。
それでも、視線だけはノアから逸らさない。
ノアはゆっくりと歩き始めた。
深紅の外套が床を擦るように揺れ、その歩みに合わせて《血界》の血糸が蠢く。
「まだ立ちますか。」
アルトは苦しそうに笑う。
「……もちろん。」
「そうですか。」
ノアは立ち止まり、《緋爪》を静かに下ろした。
「では、一つ質問です。」
「はい……。」
「どうやって勝ちます?」
アルトは息を呑んだ。
勝つ方法。
それが、もう思いつかない。
技は通じなかった。
《砕旋》も、《砕牙》も、《砕衝》も、《砕砲》も。
全て防がれた。
ノアは静かに続ける。
「力では届かない。」
「技でも届かない。」
「経験も足りない。」
「では。」
眠たげな赤い瞳が真っ直ぐアルトを見据える。
「どうやって勝ちます?」
「…………。」
答えられない。
アルトは《砕》を強く握り締めた。
その瞬間。
身体の奥底で、膨大な力が脈打つ。
(魔脈……。)
使えば。
もっと速く。
もっと強くなれる。
この状況を覆せるかもしれない。
自然と身体へ力が巡り始める。
しかし。
脳裏へ浮かんだのは、ヴォルグでの出来事だった。
限界を超えて魔脈を使った自分。
意識を失い倒れた後。
病室で眠り続けるレテの姿。
自分を助けるために無理をした仲間。
心配そうに見守っていた皆の顔。
「…………。」
アルトはゆっくり拳を開いた。
(違う。)
(また同じことをするのか。)
(力があればいいんじゃない。)
(俺は……。)
(皆と一緒に帰るために戦うんだ。)
高まりかけた力が、静かに収まっていく。
ノアはその変化を見逃さなかった。
「使わないのですか?」
アルトは小さく頷く。
「……はい。」
「理由を聞いても?」
アルトは《砕》を握り直す。
「ヴォルグで、一度使いました。」
「そのせいで……。」
一度言葉が詰まる。
「仲間に、無理をさせました。」
「だから。」
真っ直ぐノアを見た。
「もう、力に頼って戦いたくありません。」
ノアは数秒、アルトを見つめる。
「なるほど。」
短くそう呟くと、《緋爪》をゆっくり構えた。
「ですが。」
「その力を使わず、どうやって勝ちます?」
「……考えます。」
「見つからなければ?」
「見つかるまで考えます!」
「それでも見つからなければ?」
アルトは返事に詰まる。
ノアは深紅の外套を大きく広げた。
「私は、あなたを合格させるつもりはありません。」
バサァッ――。
外套の内側から、無数の血の蝙蝠が飛び立つ。
床を走る血糸も、今まで以上の速さで蠢き始めた。
「それでも諦めないと言うのなら。」
ノアの赤い瞳が細められる。
「諦めたくなるまで。」
右手を静かに振る。
「痛めつけます。」
キィィィィッ!!
血の蝙蝠が一斉にアルトへ襲い掛かった。
「っ!」
アルトは《砕》を振るう。
一匹。
二匹。
三匹。
弾き飛ばす。
だが、その隙を狙って血の礫が肩を貫く。
「ぐっ!」
着地した瞬間、血糸が足首へ絡み付く。
「しまっ!」
無理やり引き千切る。
今度は頭上から蝙蝠。
横から礫。
背後から血糸。
攻撃は止まらない。
アルトは必死に避け、弾き、走り続けた。
(勝てない……。)
荒い呼吸の中、それでも頭だけは動かす。
(どうする。)
(どうすればいい。)
(どうやったら、生き残れる。)
ノアはそんなアルトを静かに見つめていた。
(そうです。)
(考えなさい。)
(勝つ方法ではなく。)
(あなた自身の答えを。)
アルトは血の蝙蝠を払いながら訓練室を駆ける。
その時だった。
視界の端に、重厚な訓練室の扉が映る。
アルトの動きが、一瞬だけ止まった。
「……そうか。」
その小さな呟きを聞いたノアは、わずかに目を細めた。




