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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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201/473

どうやって勝ちます?

もちろん。流れを整理して、中編は「魔脈への葛藤」と「ノアが軍人としての答えを問い続ける」ことを軸にした。



中編


 訓練室中の血糸が、一斉に脈打った。


 キィィィッ!!


 血の蝙蝠が再び羽ばたく。


 アルトは肩で息をしながら《砕》を構えた。


 制服は裂け、腕や脚には無数の切り傷が刻まれている。


 呼吸も乱れ、握る《砕》は鉛のように重かった。


 それでも、視線だけはノアから逸らさない。


 ノアはゆっくりと歩き始めた。


 深紅の外套が床を擦るように揺れ、その歩みに合わせて《血界》の血糸が蠢く。


「まだ立ちますか。」


 アルトは苦しそうに笑う。


「……もちろん。」


「そうですか。」


 ノアは立ち止まり、《緋爪》を静かに下ろした。


「では、一つ質問です。」


「はい……。」


「どうやって勝ちます?」


 アルトは息を呑んだ。


 勝つ方法。


 それが、もう思いつかない。


 技は通じなかった。


 《砕旋》も、《砕牙》も、《砕衝》も、《砕砲》も。


 全て防がれた。


 ノアは静かに続ける。


「力では届かない。」


「技でも届かない。」


「経験も足りない。」


「では。」


 眠たげな赤い瞳が真っ直ぐアルトを見据える。


「どうやって勝ちます?」


「…………。」


 答えられない。


 アルトは《砕》を強く握り締めた。


 その瞬間。


 身体の奥底で、膨大な力が脈打つ。


(魔脈……。)


 使えば。


 もっと速く。


 もっと強くなれる。


 この状況を覆せるかもしれない。


 自然と身体へ力が巡り始める。


 しかし。


 脳裏へ浮かんだのは、ヴォルグでの出来事だった。


 限界を超えて魔脈を使った自分。


 意識を失い倒れた後。


 病室で眠り続けるレテの姿。


 自分を助けるために無理をした仲間。


 心配そうに見守っていた皆の顔。


「…………。」


 アルトはゆっくり拳を開いた。


(違う。)


(また同じことをするのか。)


(力があればいいんじゃない。)


(俺は……。)


(皆と一緒に帰るために戦うんだ。)


 高まりかけた力が、静かに収まっていく。


 ノアはその変化を見逃さなかった。


「使わないのですか?」


 アルトは小さく頷く。


「……はい。」


「理由を聞いても?」


 アルトは《砕》を握り直す。


「ヴォルグで、一度使いました。」


「そのせいで……。」


 一度言葉が詰まる。


「仲間に、無理をさせました。」


「だから。」


 真っ直ぐノアを見た。


「もう、力に頼って戦いたくありません。」


 ノアは数秒、アルトを見つめる。


「なるほど。」


 短くそう呟くと、《緋爪》をゆっくり構えた。


「ですが。」


「その力を使わず、どうやって勝ちます?」


「……考えます。」


「見つからなければ?」


「見つかるまで考えます!」


「それでも見つからなければ?」


 アルトは返事に詰まる。


 ノアは深紅の外套を大きく広げた。


「私は、あなたを合格させるつもりはありません。」


 バサァッ――。


 外套の内側から、無数の血の蝙蝠が飛び立つ。


 床を走る血糸も、今まで以上の速さで蠢き始めた。


「それでも諦めないと言うのなら。」


 ノアの赤い瞳が細められる。


「諦めたくなるまで。」


 右手を静かに振る。


「痛めつけます。」


 キィィィィッ!!


 血の蝙蝠が一斉にアルトへ襲い掛かった。


「っ!」


 アルトは《砕》を振るう。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 弾き飛ばす。


 だが、その隙を狙って血の礫が肩を貫く。


「ぐっ!」


 着地した瞬間、血糸が足首へ絡み付く。


「しまっ!」


 無理やり引き千切る。


 今度は頭上から蝙蝠。


 横から礫。


 背後から血糸。


 攻撃は止まらない。


 アルトは必死に避け、弾き、走り続けた。


(勝てない……。)


 荒い呼吸の中、それでも頭だけは動かす。


(どうする。)


(どうすればいい。)


(どうやったら、生き残れる。)


 ノアはそんなアルトを静かに見つめていた。


(そうです。)


(考えなさい。)


(勝つ方法ではなく。)


(あなた自身の答えを。)


 アルトは血の蝙蝠を払いながら訓練室を駆ける。


 その時だった。


 視界の端に、重厚な訓練室の扉が映る。


 アルトの動きが、一瞬だけ止まった。


「……そうか。」


 その小さな呟きを聞いたノアは、わずかに目を細めた。

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