終わりにしますか?
血の蝙蝠の群れを押し退けながら、アルトは一直線にノアへ迫った。
「新技――《砕旋》!」
《砕》を高速で回転させ、その勢いを殺さぬまま踏み込む。
まるで竜巻のように回転する一撃が、ノアへ襲い掛かった。
ノアは深紅の外套を静かに翻す。
バサァッ――。
血でできた外套がアルトの前へ広がった。
ガギィィィンッ!!
轟音が訓練室へ響き渡る。
《砕旋》は血の外套を大きく揺らした。
しかし。
破れない。
「……その場で技を発展させましたか。」
外套の向こうから、ノアの静かな声が聞こえる。
「教えたことを、すぐ形にする。」
「吸収力は見事です。」
アルトは歯を食いしばる。
「まだだぁぁ!」
回転を止める。
踏み込み。
腰を捻る。
「《砕牙》!」
全身の力を乗せた一撃が、再び同じ場所へ叩き込まれる。
深紅の外套が僅かに沈んだ。
「もう一発!」
《砕》を引かない。
密着させたまま、衝撃を放つ。
「《砕衝》!」
ドンッ!!
衝撃が外套の内側を揺らし、一瞬だけ防御が緩む。
「今だ!」
アルトは《砕》の先端へ全身の力を集中させた。
「《砕砲》!!」
圧縮された衝撃が至近距離から撃ち出される。
ズドォォン!!
深紅の外套が大きく弾け飛んだ。
「やった!」
アルトが思わず叫ぶ。
しかし。
「まだです。」
血の霧の中から、ノアの声が響いた。
「えっ……!」
《緋爪》が霧を裂く。
アルトは反射的に《砕》で受け止める。
ギィンッ!!
受け止めた。
そう思った瞬間だった。
深紅の外套が生き物のようにうねり、アルトの身体へ巻き付く。
「しまっ!」
腕。
胴。
脚。
一瞬で自由を奪われる。
「終わりではありませんよ。」
ノアが軽く腕を振った。
アルトの身体が宙へ浮く。
「うわぁぁ!」
ドォン!!
背中から床へ叩き付けられた。
「がはっ……!」
肺の空気が一気に押し出される。
息ができない。
それでも立ち上がろうとした瞬間。
バサァッ――。
ノアの外套が大きく広がった。
その内側から、赤い光が次々と浮かび上がる。
「行きなさい。」
キィィィッ!!
数十匹の血の蝙蝠が一斉に飛び出した。
「うぉぉぉ!」
アルトは《砕》を振るう。
一匹。
二匹。
三匹。
まとめて薙ぎ払う。
しかし。
砕けた血は霧となり、再び蝙蝠の姿へ戻った。
「またか!」
左右。
頭上。
背後。
四方八方から襲い掛かる。
アルトは必死に《砕》を振るい続けた。
「ぐっ!」
血の礫が肩を掠める。
「うぁっ!」
脚へ一本突き刺さる。
体勢を崩した瞬間。
床を走る血糸が足首へ絡み付いた。
「しまっ!」
転倒する。
その上から蝙蝠が襲い掛かる。
「くっ……!」
必死に《砕》を振り回しながら立ち上がる。
制服は裂け。
全身へ細かな傷が増えていく。
呼吸も乱れ始めていた。
ノアはゆっくり歩いてくる。
その姿は、まるで獲物を追い詰める吸血鬼だった。
「終わりにしますか?」
静かな問い。
アルトは肩で息をしながら《砕》を構え直す。
「……まだ。」
震える足へ力を込める。
「まだ終わってません!」
ノアは眠たげな赤い瞳を細めた。
「そうですか。」
《緋爪》が静かに構えられる。
その瞬間。
訓練室中の血糸が、一斉に脈打った。




