新技
血の蝙蝠の群れへ向かって、アルトは一気に駆け出した。
「正面から来ますか」
ノアが静かに右手を上げる。
キィィッ!
血の蝙蝠たちが一斉に散開した。
左右。
頭上。
背後。
アルトを包囲するように旋回を始める。
(囲まれる……!)
アルトは《砕》を握り直した。
一匹倒しても意味がない。
砕いても、また集まる。
なら。
「《砕円》!」
身体を軸に《砕》を大きく一回転させる。
轟ッ!!
円を描く衝撃が周囲へ広がり、迫っていた血の蝙蝠をまとめて吹き飛ばした。
赤い霧が訓練室へ舞い散る。
「なるほど」
ノアは小さく頷く。
「広範囲を薙ぎ払う技ですか。」
「でも!」
アルトの表情は晴れない。
吹き飛ばされた血が再び集まり始める。
赤い霧は蝙蝠の姿へ戻り、またアルトを取り囲んだ。
「くそっ!」
足を止めた瞬間。
左右から再び血の蝙蝠が迫る。
《砕》を振るう。
一匹。
二匹。
三匹。
だが、減らない。
むしろ数が増えているようにすら思えた。
(駄目だ。)
(止まるたびに囲まれる。)
アルトは後ろへ飛び退く。
その着地点へ血糸が走った。
「っ!」
咄嗟に身体を捻り避ける。
その頭上を血の蝙蝠が掠めていった。
(《砕円》は強い。)
(でも。)
(回る時に止まる。)
(だから追いつかれる。)
アルトは歯を食いしばる。
(だったら。)
(止まらなきゃいい!)
その瞬間。
アルトの身体が自然と動いた。
《砕》を回しながら。
一歩。
また一歩。
前へ踏み込む。
回転を止めず。
足も止めない。
迫る血の蝙蝠を回転する《砕》が次々と弾き飛ばしていく。
右から来る一匹を弾く。
返す勢いで左の二匹を薙ぐ。
そのまま前進。
回転。
前進。
回転。
アルト自身が、一つの竜巻になった。
「……。」
ノアの赤い瞳が、僅かに見開く。
(その場で技を変えましたか。)
(やはり。)
(教えたことを、すぐ自分のものにする。)
アルトは血の群れを押し退けながら叫んだ。
「これなら!」
「止まらない!」
最後の一匹を弾き飛ばす。
目の前に一直線の道が開けた。
アルトは笑う。
「名前も決めた!」
さらに速度を上げる。
「新技!」
「《砕旋》!」
回転の勢いをそのまま推進力へ変え、一気にノアとの距離を詰める。
ノアは深紅の外套を静かに翻した。
「……面白い。」
初めて。
軍事局長ノア・ヴァルハイトが、アルトの新技を真正面から迎え撃った。




