ぶち抜けばいい!
ノアが右手を軽く振る。
「行きなさい」
キィィッ!
血の蝙蝠たちが一斉に羽ばたいた。
「来た!」
アルトは《砕》を構える。
右から三匹。
左から五匹。
さらに頭上。
四方八方から一斉に迫ってくる。
「うおぉぉ!」
《砕》を横薙ぎに振るう。
バシュッ!
二匹の血の蝙蝠が霧となって砕け散る。
しかし。
霧となった血は再び集まり、元の姿へ戻った。
「えぇっ!?」
アルトは思わず声を上げる。
「復活した!?」
「ええ」
ノアはその場から一歩も動かない。
「私を倒さない限り、《血殻》から生まれた眷属は何度でも再生します」
「反則じゃないですか!」
「そうでしょうか?」
ノアは首を傾げる。
「戦場は、もっと理不尽ですよ」
「くっ!」
アルトは後ろへ飛び退く。
その足元へ血糸が伸びる。
「また!」
咄嗟に飛び上がる。
その瞬間だった。
キィッ!
頭上から血の蝙蝠が急降下する。
「しまっ!」
ガギィンッ!
《砕》で受け止める。
しかし。
一匹では終わらない。
二匹。
三匹。
四匹。
次々と襲い掛かってくる。
「うわぁぁぁ!」
アルトは必死に振り払いながら距離を取る。
制服には細かな切り傷が増えていく。
腕。
肩。
頬。
浅い傷ばかり。
だが確実に体力を削られていく。
「……」
ノアは黙って見ていた。
(攻撃を受けても前へ出る。)
(逃げない。)
(守勢でも視線は私から外さない。)
(悪くありません。)
アルトは肩で息をしながら笑う。
「すげぇなぁ……。」
「こんな術、初めて見た!」
「感心している余裕がありますか?」
「あります!」
即答だった。
「見てるだけで楽しい!」
「……」
ノアは少しだけ目を閉じた。
(普通なら。)
(恐怖で動けなくなる。)
(この子は。)
(恐怖より好奇心が勝つ。)
アルトは《砕》を握り直す。
「なら!」
深く息を吸う。
「俺も考える!」
血の蝙蝠を見つめる。
一匹。
二匹。
三匹。
飛び方。
速度。
旋回。
そして。
ノア。
「……なるほど。」
アルトが小さく呟いた。
ノアの眉が僅かに動く。
「気付きましたか?」
「はい。」
アルトはニッと笑う。
「この蝙蝠!」
「俺じゃなくて!」
《砕》を構え直す。
「ノアさんを守ってるんですね!」
ノアは何も答えない。
だが。
その赤い瞳が、ほんの少しだけ細くなった。
(初めて。)
(術ではなく。)
(術の”目的”を見た。)
アルトは低く身を沈める。
「だったら!」
「守りをぶち抜けばいい!」
血の蝙蝠の群れへ向かって、一気に駆け出した。




