見捨てる決断
ノアは《緋爪》をゆっくりと下ろした。
「答えてください」
アルトは《砕》を握り直す。
「はい」
「あなたは、誰を守りたいのですか」
「精霊です!」
迷いなく答える。
「それだけですか?」
「仲間も!」
「まだ足りません」
アルトは首を傾げた。
「ガイストの人たちも!」
「……違います」
ノアは静かに首を横へ振る。
「軍人は、目の前にいる者だけを守る仕事ではありません」
訓練室へ、ノアの声だけが響く。
「国を守る。」
「民を守る。」
「未来を守る。」
「そのためなら」
《緋爪》を握る手へ力が入る。
「目の前の一人を、見捨てる決断をしなければならない時もあります」
アルトは目を見開いた。
「そんなの……」
「できますか?」
「……できません」
即答だった。
ノアは頷く。
「でしょうねぇ」
「だから私は、あなたを軍へ入れたくない」
「あなたは優しすぎる」
「その優しさは」
一歩。
ノアが歩み寄る。
「いずれ、多くの命を危険へ晒します」
アルトは唇を噛んだ。
「でも!」
叫ぶように言う。
「俺は!」
「誰も見捨てたくありません!」
「……そうですか」
ノアの表情は変わらない。
「では」
《緋爪》を構える。
「証明してください」
「あなたの理想が」
「綺麗事では終わらないことを」
その瞬間。
ノアの姿が掻き消えた。
「っ!」
アルトは《砕》を構える。
右。
左。
違う。
(上!)
《砕》を頭上へ掲げる。
ガギィィン!!
《緋爪》が激しくぶつかる。
「……!」
今度は押し負けない。
アルトは歯を食いしばり、そのままノアを押し返した。
ノアは軽やかに後方へ着地する。
「ほう」
初めて、少しだけ感心したような声が漏れた。
「力任せではありませんでしたねぇ」
アルトは息を切らしながら笑う。
「見てましたから!」
「ノアさんを!」
ノアは数秒、アルトを見つめる。
(吸収が早い。)
(教えたことを、その場で形にする。)
(……厄介ですね。)
心の中ではそう評価しながらも、口にした言葉は冷たい。
「まだ、不合格です」
アルトは苦笑した。
「ですよね!」
その返事に、ノアは心の中だけで小さく息を吐く。
(普通なら、ここで心が折れる。)
(この子は折れない。)
(だからこそ……。)
(見極めなければならない。)




