エスコート
中心街を歩いていると、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。
「うぅ……ママぁ……」
アルトは足を止めかける。
通りの端。
まだ幼い男の子が一人、目元を擦りながら泣いていた。
周囲には大人の姿もある。
だが、誰も足を止めない。
アルトは気になって何度も振り返った。
けれど今は試験中だ。
ヴェロニカをエスコートしなければならない。
勝手なことをすれば、減点されるかもしれない。
アルトは前を向き直る。
そのまま、数歩進んだ。
「ママぁ……」
小さな泣き声が、背中へ届く。
その声を聞いているうちに。
不意に、アルトの頭の奥で何かが揺れた。
まだ小さかった頃。
不安で泣いていた自分。
誰かが隣に立ち、黙って手を差し出してくれた。
その手を握って歩いた。
顔も、声も、はっきりとは思い出せない。
けれど。
温かかったことだけは覚えている。
アルトは足を止めた。
「ヴェロニカ隊長」
「なぁに?」
「ごめんなさい」
繋いでいた手を離す。
「ちょっとだけ待ってて!」
返事を待たず、アルトは来た道を駆け戻った。
泣いている男の子の前まで来ると、その場にしゃがみ込む。
子供と同じ高さまで視線を落とし、できるだけ明るく笑った。
「大丈夫か?」
男の子は涙で濡れた顔を上げる。
「俺、アルト!」
「名前、聞いてもいいか?」
「ぐすっ……」
男の子は鼻をすすった。
「ルーパ……」
「ルーパか!」
アルトは大きく頷く。
「ママか、パパと一緒に来たのか?」
「パパは、お仕事で……」
「ママは、さっきまでいたのに……」
声が震える。
「わかんないぃ……」
また泣きそうになるルーパへ、アルトは慌てて笑いかけた。
「あぁ、そっか!」
「ママが迷子になっちゃったのか!」
「……ママが?」
「そうそう!」
アルトは力強く頷く。
「だから、ルーパが見つけてあげようぜ!」
ルーパの泣き声が少しだけ止まる。
アルトは自分の肩を指差した。
「よし、ルーパ!」
「肩車してもいい?」
「……肩車?」
ルーパが目を瞬いた。
先ほどまで泣き崩れていた顔に、僅かな明るさが戻る。
「おう!」
アルトは背中を向け、その場へ膝をついた。
「高いところからなら、ママも見つけやすいだろ?」
「俺と一緒に探そう!」
ルーパは少し迷ったあと、涙を拭った。
「……うん!」
その返事を聞いたアルトは、嬉しそうに笑った。




