あぁ…なるほど
◇
アルトが会議室を後にすると、バルガスは答案をまとめ、大きく伸びをした。
「さて……」
先ほどまでの豪快な笑みは消えている。
足早に局長室へ向かうと、扉を二度叩いた。
「失礼しますよぉ」
「どうぞ」
気怠そうな声が返ってくる。
部屋へ入ると、ノア・ヴァルハイトは書類へ目を通したまま口を開いた。
「バルガス隊長……試験結果ですか?」
「あぁ」
バルガスはソファへ腰を下ろす。
「アルトの坊主は合格です」
ノアは書類から目を離し、静かに頷いた。
「どうでした?」
「思ってた以上でしたよぉ」
「歴史、戦術、算術はかなり出来る。逆に精霊術学と精霊術史はからっきしでしたがねぇ」
「教えたらすぐ理解しましたよ」
「……そうですか」
ノアは眠たそうな赤い瞳を細める。
「やはり教育の偏りが大きいようですね」
「あぁ、それと」
バルガスの表情が引き締まる。
「報告があります」
「何でしょう」
「アルトの坊主が、ヴォルグでリヒト・エルナーを見たそうです」
部屋の空気が静まり返った。
ノアの手が止まる。
「……続けてください」
「ライっていう奴と一緒にいたそうです」
「ライ……」
ノアは小さくその名を繰り返した。
「聞いたことはありませんねぇ」
「人喰らいですか?」
「さぁ、そこまでは」
バルガスは首を横へ振る。
「ですが、アルトの坊主の話じゃ普通じゃありませんでした」
ノアはしばらく考え込む。
そして静かに口を開いた。
「……シオン隊長を呼びましょうか」
バルガスは顎へ手を当てる。
「まぁ、適任でしょうが……」
「試験は延期ですかい?」
「いえ」
ノアは即座に首を横へ振った。
「続行しますよ?」
バルガスは一瞬だけ目を丸くし、すぐに口元を緩める。
「あぁ……なるほどね」
「まぁ、まずはヴェロニカ隊長の試験結果によりますがね」
「えぇ」
ノアは静かに頷いた。
「その結果を見てから、シオン隊へ引き継ぎます」
「そりゃそうで……」
バルガスは立ち上がる。
「んじゃ、俺ぁ失礼します」
「ユノに話がある」
その言葉に、ノアはゆっくり顔を上げた。
「……本当によろしいので?」
バルガスは豪快に笑う。
「だっはは!」
「あいつも、もうガキじゃねぇんだ」
「それに」
少しだけ表情を和らげる。
「あいつのためにもなるでしょうし」
ノアは数秒だけ黙っていた。
やがて、小さく頷く。
「……分かりました」
「お疲れさまです」
「おう」
バルガスは片手を上げると、そのまま局長室を後にした。




