1人目 爆熱の場合
数日後。
アルトは、軍事局内にある会議室の前に立っていた。
目の前には、重厚な木製の扉。
この先で待っているのは、最初の試験官。
《爆熱》バルガス・グレンダル。
「よし!」
アルトは両手で頬を叩いた。
「やってやるぞ!」
試験官が誰なのかは聞かされている。
だが、肝心の試験内容については何も知らされていない。
分かっているのは、相手がガイスト軍の隊長であり、《爆熱》という二つ名を持つ男だということだけ。
それでも、どのような人物なのかは少しだけ知っていた。
ヴォルグでの任務中、一時的にアーヴェル隊へ加わっていたユノ。
彼は本来、バルガス隊に所属している。
そのため、アルトは試験を受ける前に、バルガスについて尋ねていた。
『アルトさん……爆発しないでくださいね』
その時のユノには、いつもの柔らかな笑みがなかった。
糸のように細い目は変わらない。
それでも、本気で心配していることだけは分かった。
「二つ名は《爆熱》」
アルトは扉を見上げる。
「それで、爆発しないでくださいってことは……」
考えるまでもない。
「戦闘だろ」
口元を吊り上げ、拳を握る。
「へっ、上等!」
アルトは勢いよく扉を叩いた。
「失礼します!」
すぐに、部屋の中から豪快な声が返ってくる。
「おう! 待ってたぜ!」
アルトは扉を開けた。
会議室の中央に、一人の大男が立っている。
年齢は五十代後半ほど。
鍛え上げられた身体に、左の眉から頬へ伸びる古い火傷の痕。
その場にいるだけで、熱気を感じさせるような男だった。
「今日はよろしくお願いします!」
アルトは勢いよく頭を下げる。
「だっはは!」
男は腹の底から笑った。
「元気がいいな、小僧!」
そして、長机の前に並べられた椅子を指差す。
「そこに座れ!」
「はい!」
アルトは素早く椅子へ腰を下ろした。
バルガスはその様子を眺めていたが、やがて自分の傍らへ目を向ける。
「ほう……」
僅かに目を細めた。
「本当に俺の精霊がブルってやがる」
「……ごめんなさい」
アルトは申し訳なさそうに頭を下げた。
バルガスの傍らには、淡い光が浮かんでいる。
アルトに見えるのは、それだけだった。
形も、色も、表情も分からない。
ただ、そこに精霊がいる。
それだけは分かる。
「気にすんな!」
バルガスは豪快に笑い飛ばした。
「体質なんだろ?」
そして、傍らの光へ視線を向ける。
「ソラティオ!」
「しゃきっとしろ!」
淡い光が、怯えるように小さく揺れた。
「ソラティオ……」
アルトはその名を小さく繰り返した。
そして、すぐに顔を上げる。
「あの、質問してもいいですか?」
「おう!」
「隊長の精霊は、どんな見た目なんですか!」
「あ?」
バルガスは目を瞬いた。
「そんなことか?」
「はい!」
アルトは期待に満ちた目で、真っ直ぐバルガスを見つめている。
普通なら、これから受ける試験のことを聞く。
内容は何か。
合格条件は何か。
何を求められているのか。
だが、この小僧が最初に気にしたのは、試験ではなかった。
自分の傍らにいる精霊の姿。
それを知りたいと、目を輝かせている。
バルガスは心の中で呟いた。
こういう時は、普通なら試験のことを聞くもんだがな。
精霊を助けるためにヴォルグへ乗り込んだ、と聞いている。
どうやら、その話に嘘はなさそうだ。
バルガスは腕を組み、誇らしげに笑った。
「名はソラティオ!」
「火の馬の精霊だ!」




