謁見④
つい先ほどまで二人を押し潰していた威圧感が、まるで嘘だったかのように消え去る。
カイゼルは満面の笑みで頷いた。
「ちゃんと謝って。」
「正直に話して。」
「友達想い。」
「うんうん、実に良い!」
上機嫌に白い髭を撫でる。
「アル坊はお咎めなし!」
「ガオンは一旦帰国!」
「お父上に殴られてこい!」
「……はい?」
ガオンは思わず聞き返した。
「安心せい。」
「死なん程度じゃ。」
カイゼルは豪快に笑う。
「はっはっはっ!」
アルトはその場へへたり込みそうになる。
「は、はは……。」
「こ、怖かったぁ……。」
「おい。」
隣でガオンが小声で注意する。
「国王陛下の御前だ。」
「姿勢を崩すな。」
「あー、もういいよいいよ。」
カイゼルが手をひらひらと振る。
「楽にせい。」
「お茶でも飲むか?」
「い、いえ!」
アルトは慌てて首を横に振る。
「だ、大丈夫です!」
「あっそう?」
カイゼルはあっさり引き下がる。
そして腕を組み、小さく唸った。
「うーん……。」
「アル坊は、このままアーヴェルの隊へ――」
そこまで言って、何かを思いついたように手を叩く。
「あ、タンマ。」
「やっぱりやめじゃ!」
アルトとガオンが首を傾げる。
カイゼルはにやりと笑った。
「各隊長のところを回ってこい。」
「揉まれてこい。」
「色んな奴から学んだ方が、お主には合っとる。」
「わしの方から頼んでおく。」
アルトは目を丸くした。
「え?」
「じゃあ……。」
「俺……。」
「精霊術師に――」
「まだじゃ。」
カイゼルは笑って首を振る。
「正式な精霊術師になるには、まだ早い。」
「じゃが。」
「その資格があるかどうかは、このわしが保証してやる。」
アルトの表情がぱっと明るくなる。
「……はい!」
「よし!」
カイゼルは勢いよく立ち上がった。
「話は終わり!」
「解散!」
あまりにも突然の締めに、アルトとガオンは再び顔を見合わせる。
「……失礼いたします。」
二人は立ち上がり、一礼すると踵を返した。
謁見室を出た瞬間。
二人は同時に大きく息を吐く。
「はぁぁぁ……。」
そしてまた、お互いの顔を見合わせた。
「……生きた心地がしなかったな。」
「うん。」
アルトは苦笑しながら頷く。
「でも……。」
胸元へ手を当てる。
「なんか、認めてもらえた気がする。」
ガオンは静かに微笑んだ。
「ああ。」
「少なくとも、あの方は最初からお前を裁くために呼んだわけではなかった。」
二人は王城の廊下を歩き始める。
アルトはまだ知らない。
“各隊長に揉まれる”というカイゼルの一言が、自分の想像を遥かに超える地獄の始まりであることを。




