謁見③
カイゼルは笑っている。
だが、その目はまるで笑っていない。
「貴様一人の勝手な行動で、国と国との戦争が起こりそうだったのだぞ」
低い声が、謁見室へ響く。
「分かるか?」
「人が、何人死ぬと思う」
アルトは何も答えられなかった。
その隣で、ガオンが歯を食いしばりながら顔を上げる。
「お、恐れながら陛下」
押し潰されそうな威圧の中、どうにか声を絞り出す。
「アルトを連れ出したのは私です」
カイゼルの視線がガオンへ向く。
「……それで?」
「この者がいれば、ヴォルグへの入国も容易く……」
「何故だ?」
「……それは」
ガオンの言葉が止まった。
アルトを連れていけば、何かが起こる。
そんな確信はあった。
だが、その理由を説明できるほど、ガオンはアルトのことを知ってはいない。
カイゼルは小さく息を吐いた。
「ガオンよ」
笑みを浮かべたまま、静かに告げる。
「喋る時は、もう少し考えてからの方がよいのぉ」
「……申し訳ございません」
ガオンが深く頭を下げる。
アルトは意を決して口を開いた。
「あ、俺――」
「誰が発言を許可した?」
「……っ」
アルトは慌てて口を閉ざした。
そして、一度息を整える。
「発言しても、よろしいでしょうか」
カイゼルは数秒、アルトを見つめた。
「よいだろう」
「ありがとうございます」
アルトは深く頭を下げた。
「まずは、勝手な行動で国を危ない目に遭わせて、本当にごめんなさい」
言い訳をすることなく、素直に謝罪する。
「俺、自分が何者なのか知りたかったんです」
「それで、ヴォルグへ行けば何か分かるかもしれないって思って……」
カイゼルは黙って話を聞いている。
「……それで、何か分かったか?」
「いいえ」
アルトは首を横に振った。
「何も分かりませんでした」
「でも」
少しだけ顔を上げる。
「精霊がたくさん苦しんでいました」
「だから、助けなきゃって思ったんです」
声に力が入る。
「それに、俺を見ても逃げない精霊がいたんです」
カイゼルの眉が、ほんの僅かに動いた。
「ほう」
「初めてだったんです」
「俺を見ても逃げなくて」
「ちゃんとこっちを見てくれて」
アルトの表情が、少しだけ寂しそうに曇る。
「でも、どこかへ行っちゃいました」
カイゼルは何も言わず、続きを促す。
「とにかく俺は、自分のことを知りたいです」
「自分が何者なのか知って」
「それで、精霊術師になって――」
「精霊術師になって、どうする?」
カイゼルの問いに、アルトは言葉を止めた。
少し前までなら。
答えは一つしかなかった。
精霊と仲良くなりたい。
ただ、それだけだった。
けれど今は違う。
レテ。
ログ。
フィリア。
ヒルト。
ガオン。
自分のために怒り、守り、手を差し伸べてくれた者たち。
アルトは静かに拳を握った。
「前は」
「精霊と仲良くなりたいだけでした」
「でも、今は違います」
真っ直ぐカイゼルを見上げる。
「友達を守れるくらい、強くなりたいです!」
謁見室が静まり返った。
凄まじかった威圧が、少しずつ消えていく。
カイゼルはしばらくアルトを見つめたあと。
再び、満面の笑みを浮かべた。
「はい!」
「合格!」
「……は?」
アルトとガオンの声が、見事に重なった。




