謁見②
重厚な扉が、ゆっくりと開かれる。
その先に広がるのは、ガイスト王城の謁見室。
王の間としては決して広くはない。
豪華な装飾は施されているものの、どこか温かみを感じさせる造りだった。
部屋の中央、一段高く設けられた玉座。
そこへ一人の老人が腰を掛けている。
ガイスト国王――カイゼル・ジーアス。
年の頃は六十代。
腰まで届く長い白髪に、胸元まで伸びた立派な白髭。
頭には黄金の王冠を戴き、純白を基調とした王衣に深紅のマントを羽織っている。
その穏やかな表情からは想像もつかないほど、自然と人を惹きつける風格があった。
玉座の傍らには、一人の大柄な男が腕を組み、静かに控えている。
全身を覆う重厚な鎧。
歴戦の戦士であることが、一目で分かる佇まいだった。
アルトとガオンは玉座の前まで歩み寄ると、同時に片膝をつく。
「失礼いたします。」
二人の声が重なる。
カイゼルは満足そうに頷くと、穏やかに笑った。
「よく来たなぁ。」
「まぁ、そんな固くなるな。」
その柔らかな口調に、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
カイゼルはまずガオンへ視線を向けた。
「久しぶりじゃの、ガオン王子。」
「ご無沙汰しております、カイゼル陛下。」
ガオンは姿勢を崩さず答える。
「元気そうで何よりじゃ。」
「はい。」
短いやり取りを終えると、カイゼルはゆっくりとアルトへ顔を向けた。
「お主がアルトか!」
「はい。」
アルトは真っ直ぐ返事をする。
カイゼルはにこにこと笑みを浮かべたまま、白い髭を撫でる。
「ヴォルグでは大暴れしたようじゃのぉ。」
アルトは思わず苦笑いを浮かべた。
「……。」
短い沈黙が流れる。
そして。
カイゼルは笑顔のまま、静かに呟いた。
「何のつもりだ、貴様。」
「――ッ!」
その一言が放たれた瞬間。
凄まじい威圧が、アルトとガオンへ襲いかかった。
空気が重い。
肺へ空気が入らない。
全身を見えない何かに押さえつけられ、指一本動かすことさえ難しい。
ガオンの額を、一筋の汗が流れ落ちる。
アルトも歯を食いしばり、片膝をついた姿勢を崩さないよう耐える。
笑顔は変わらない。
それでも二人は理解した。
目の前にいるのは、ただ穏やかな老人ではない。
精霊国家ガイストを束ねる――王だった。




