↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
167/467

功績と危険性②

 ノアは眠たげな赤い瞳をゆっくりと扉へ向けた。


「バルガス隊長……」


「ノックくらい、されては?」


「いやー、すみませんねぇ」


 バルガスは頭を掻きながら、悪びれもせず笑う。


「話が聞こえたもんで、つい」


「それは盗み聞きというのでは?」


「細けぇことは気にしないでくださいよ、局長殿」


「気にしますよ」


「次から気をつけますって」


 口ではそう言いながら、反省している様子はまるでない。


 ノアは小さくため息をついた。


 バルガスはそのままアーヴェルの隣へ歩み寄り、太い腕を組む。


「そんな怖ぇ顔すんなよ、アーヴェル」


「ガオン王子の方は、もしかしたら技術留学の打ち切りになるかもしれねぇ」


「だが、相手はルミナスの王子だ」


「こっちの一存でどうこうできる立場じゃねぇよ」


「……そうだな」


 アーヴェルは静かに頷く。


 ガオンは謹慎を破り、無断でヴォルグへ潜入した。


 だが、他国の王族である以上、ガイストが勝手に重い処分を下すことはできない。


 問題になるとしても、技術留学の打ち切りか、ルミナスへの強制帰国。その程度だろう。


 バルガスは顎を撫でる。


「だが、小僧の方は分かんねぇな」


 その言葉に、ノアの表情が僅かに引き締まった。


「ええ」


「私も、問題はアルト君の方だと考えています」


 机の上へ置かれた報告書へ視線を落とす。


「アルト君は謹慎中でした」


「それにもかかわらず、独断で国外へ出た」


「ヴォルグの重要施設へ侵入し、複数のフェルギアを破壊」


「さらに、詳細不明の力まで使用しています」


 淡々と事実だけを並べる声。


 アーヴェルの拳へ、僅かに力が入った。


「ですが、結果として囚われていた精霊たちは救われました」


「ヴォルグ国王が方針を改めるきっかけも作った」


「功績は認めていますよ」


 ノアは報告書を閉じる。


「ですが、功績と危険性は別の問題です」


 室内へ、重い沈黙が落ちた。


「アルトは精霊を助けるために動いただけです」


 アーヴェルが真っ直ぐノアを見る。


「そこに私欲はありません」


「その思いに嘘はないのでしょう」


 ノアは否定しなかった。


「しかし彼は、自分が正しいと思えば命令を破る」


「国境を越える」


「己の命すら顧みない」


「そのような人物を、私はまだ信用できません」


 アーヴェルの眉間へ、深い皺が刻まれる。


「アルトは危険人物などではありません」


「そうかもしれません」


「ですが私は、彼をほとんど知りません」


 ノアの眠たげな赤い瞳が、静かに細められる。


「経歴も不明」


「これまでどこで何をしてきたのかも曖昧」


「力の正体も分からない」


「そして、何を基準に行動する人物なのかも、まだ完全には把握できていません」


 一拍置き、ノアは続けた。


「分かっているのは、精霊を救うためなら、自分の命も命令も顧みないということだけです」


 バルガスは腕を組んだまま、低く唸った。


「報告書を見る限りじゃあ、随分と無茶する小僧だな」


「俺ぁ、まだ一度も会ったことねぇけど」


「精霊のために命を張る。そりゃ結構なことだ」


「だが、周りまで巻き込むようじゃ、軍人は務まらねぇ」


「アルトはまだ軍人ではありません」


 アーヴェルが返す。


「だったら、なおさら厄介ですね」


 ノアは間を置かずに答えた。


「軍属ですらない青年が、独断で他国へ入り、一国の情勢を変えてしまった」


「私はそれを危険だと判断しています」


 バルガスは二人の顔を交互に見た。


「まあ、局長殿の言い分も分かりますけどねぇ」


 ノアへ向ける言葉だけが、少しだけ丁寧になる。


「ですが俺ぁ、実際に会ってみねぇことには何とも言えねぇ」


 今度はアーヴェルへ顔を向けた。


「報告書だけじゃ、人柄までは分かんねぇからな」


「……ああ」


 アーヴェルは静かに頷いた。


 ノアも否定はしなかった。


「だからこそ、陛下も直接会われるのでしょう」


「彼が国へ大きな功績をもたらした青年なのか」


「それとも――」


 僅かに言葉を切る。


「国として管理すべき危険人物なのか」


 アーヴェルの表情がさらに険しくなる。


「管理、ですか」


「必要であれば」


 ノアの答えに迷いはない。


「未知の力を持ち、命令に従わず、精霊のためなら何処へでも向かう」


「放置するには、あまりにも危うい」


「それでも私は、アルトを信じています」


「君が信じることを否定するつもりはありません」


 ノアは椅子へ深く背を預けた。


「ですが私は、軍事局長です」


「一人の人間ではなく、国全体を見なければならない」


「信頼だけで判断することはできません」


 張り詰めた空気の中、バルガスが大きく息を吐いた。


「まったく、堅ぇ話だな」


 アーヴェルへ向けて肩をすくめる。


「お前が小僧を庇いたくなるのも分かる」


「局長殿が警戒するのも分かりますよ」


 ノアへ視線を移し、くだけた敬語で続ける。


「けど、難しく考えたって仕方ねぇでしょう」


「ガオン王子が国へ返されるのか」


「小僧が褒められるのか、怒られるのか」


「それとも、精霊術師として何かしらの称号を授けられるのか」


 口元を吊り上げる。


「答えなんざ、もうすぐ分かるさ」


 アーヴェルは窓の外へ視線を向けた。


 王城のある方角。


 そこへ向かっているであろうアルトとガオンの姿を思い浮かべる。


「……どうか、余計なことだけはしないでくれ」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


 バルガスはその横顔を見て、鼻で笑った。


「それをあの小僧に期待するのは、もう遅ぇんじゃねぇか?」


「バルガス」


「冗談だって」


 低い声で名前を呼ばれ、バルガスは両手を上げた。


 ノアはそんな二人を眺めながら、机の上の報告書を静かに閉じる。


「さて」


「陛下が、どのような判断を下されるのか」


 眠たげな赤い瞳の奥へ、鋭い光が宿った。


「私も興味がありますね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。