頑張ってね
◇
「忘れ物はないかな……」
レテはまとめた荷物を見回しながら、小さく呟いた。
「何かあれば伝えるよ」
ヒルトが穏やかに答える。
その隣では、ベッドへ横になったフィリアが大きく伸びをしていた。
「んー! 私も早く退院したいなぁー!」
ログが呆れたように眉をひそめる。
「腹掻っ捌かれた奴が何言ってんだ」
「ログはなんで大怪我したのに入院しないの?」
フィリアは首を傾げる。
「焦げパンだから?」
「テメェ!」
ログが一歩踏み出す。
「きゃー! ヒール助けてー!」
フィリアは慌ててヒルトの背後へ隠れた。
「二人とも静かに……」
ヒルトは困ったように間へ入る。
レテはそんな三人を見ながら、ふと首を傾げた。
「そういえば、そのヒールって――」
コンコン。
病室の扉が静かに叩かれた。
「失礼します」
扉が開く。
そこに立っていたのは、リオネルだった。
「リオネルさん!」
レテとログの声が重なる。
リオネルは軽く微笑み、丁寧に一礼した。
「レテ殿。退院、おめでとうございます」
そう言って差し出したのは、一束の花。
赤いチューリップ。
白いハナミズキ。
鮮やかな千日紅。
色とりどりの花が、丁寧にまとめられていた。
「ありがとうございます」
レテは嬉しそうに花束を受け取る。
その様子を見ていたフィリアの目が細くなる。
「むむ……!」
何かに気づいたように、花束とリオネルを交互に見る。
そして突然、腹を押さえた。
「ヒール、ログ」
「ちょっと傷が痛むから、肩貸して」
「えぇ! だ、大丈夫?」
ヒルトが慌てて駆け寄る。
「騒ぐからだ!」
ログも文句を言いながら、反対側へ回った。
二人に肩を借りながら、フィリアはゆっくりと病室を出ていく。
リオネルの横を通り過ぎる、その瞬間。
フィリアは顔だけを近づけ、小さな声で囁いた。
「頑張ってね」
「……!」
リオネルの肩が僅かに揺れる。
フィリアは何事もなかったように、そのまま廊下へ出ていった。
「痛い痛い〜」
「絶対嘘だろ」
「静かに歩いて」
三人の声が遠ざかっていく。
病室には、レテとリオネルだけが残された。
レテは花束を抱えたまま、不思議そうに扉を見つめていた。




