いつもの雰囲気
「レテ!」
ガタッ!
椅子を倒し、アルトは勢いよく立ち上がった。
「目が覚めた!」
顔いっぱいに笑みを浮かべる。
「よかったぁ!」
今にも飛びつきそうな勢いでレテの傍へ駆け寄ろうとした、その時だった。
「お、俺!」
勢いよく振り返る。
「人呼んでくる!」
「だ、誰かーー!」
「あっ!」
レテが止めるより早く、アルトは病室を飛び出していた。
「先生ーー!」
「レテが目ぇ覚ましたーー!」
廊下中へ響く大声。
すると。
「おい!アルト!」
廊下の向こうからログの怒鳴り声が響いた。
「病院で全力疾走してんじゃねぇ!」
「うわっ!」
ゴツンッ。
「いてぇ!」
何かに頭を叩かれたような鈍い音が病室まで聞こえてくる。
「患者が元気なのは結構だが、静かにしろ馬鹿。」
「だってレテが!」
「レテが起きたんだぞ!」
「だからって走る理由にはならねぇ。」
「ぐぬぬ……。」
アルトが不満そうな声を漏らした、その直後。
病室の扉が勢いよく開いた。
「レテぇぇぇぇ!」
フィリアだった。
涙をぽろぽろ零しながら病室へ飛び込もうとする。
「よがったぁぁぁ!」
「目ぇ覚めだぁぁぁ!」
「フィリア!」
後ろからヒルトが慌てて肩を掴む。
「君も怪我人なんだから走ったら駄目だよ!」
「レテだって起きたばかりなんだから!」
「あっ……。」
フィリアは足を止める。
しかし次の瞬間にはまた涙が溢れた。
「でもぉぉ……!」
「ほんとに心配したんだからぁぁぁ!」
レテは思わず笑みを零す。
「ありがとうございます、フィリア。」
「うぅ……。」
フィリアは鼻をすすりながら何度も頷いた。
その後ろからユノが静かに頭を下げる。
「おはようございます、レテさん。」
「目が覚めて、本当に良かったです。」
最後に白衣姿の医者が病室へ入ってくる。
「はいはい、患者さんは少し静かにね。」
レテの瞳や脈を確認し、傷口を診察する。
しばらくして満足そうに頷いた。
「うん!」
「もう大丈夫だね!」
病室に安堵の空気が流れる。
「でも、大事を取ってあと二日は入院。」
「絶対安静だからね。」
「はい。」
レテは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
医者は笑顔で頷くと、今度はアルトへ向き直る。
「あ。」
アルトの表情が固まる。
「君。」
「は、はい……?」
「検査、まだ終わってないよね?」
「……え?」
医者はにっこり笑った。
「今日は献血ね。」
「いっぱい血を失ってたから。」
アルトは一歩後ずさる。
「い、いや……。」
「大丈夫。」
医者はアルトの肩へぽんっと手を置いた。
「……倒れないようにね。」
ニヤッと笑う。
「…………。」
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁ!」
病院中へ響く悲鳴。
「針だけは嫌だぁぁぁ!」
「はいはい、行くよ。」
医者は笑いながらアルトの腕を掴む。
「ログぅぅぅ!」
「助けてぇぇ!」
「自業自得だ。」
ログは腕を組んだまま肩をすくめた。
「ヒルトぉぉぉ!」
「頑張って。」
「フィリアぁぁ!」
「ふぁ、ふぁいと……!」
「ユノぉぉぉ!」
「応援しています。」
「みんな冷たぁぁぁい!」
アルトは医者に引きずられながら病室を後にした。
「いやぁぁぁ!」
「一本だけだから!」
「一本が嫌なんだよぉぉぉ!」
悲鳴は廊下の奥へ消えていく。
病室には、思わず吹き出すような笑いが広がった。
レテも肩を震わせながら、小さく笑う。
「……ふふっ。」
その笑顔を見たログは、安心したように息を吐いた。
「やっと笑ったな。」
レテは仲間たちを見回す。
皆、無事だった。
それだけで胸がいっぱいになる。
そして静かにログへ視線を向けた。
「……ログ。」
「ん?」
「あのあと……何があったんですか?」
病室の空気が静まり返る。
ログは腕を組み直し、ゆっくりと壁へ背を預けた。
「……ああ。」
少しだけ目を伏せる。
「お前が治癒を続けたあとだ。」
遠くを見つめるように呟く。
「アルトが突然、光に包まれてな――」
ログの言葉とともに、意識はあの戦いの終わりへと遡っていった。




