静かに消えていく命
「治癒!」
淡い水色の光がアルトの全身を包み込む。
裂けた皮膚がゆっくりと塞がり、止まらなかった出血も収まっていく。
「お願いです……!」
レテは必死に治癒を続ける。
「目を覚ましてください……アルト君!」
しかし。
アルトは目を覚まさない。
傷は確かに塞がっている。
それなのに苦しそうに呼吸を繰り返し、身体は小刻みに震えていた。
「どうして……」
レテの瞳から涙が零れる。
「どうして……治らないんですか……」
その時だった。
「オーズィラ!」
聞き慣れた声が通路の奥から響く。
レテが振り返る。
ログがアーヴェル隊長へ肩を貸しながら歩いてきた。
二人とも全身傷だらけだった。
「隊長!」
アーヴェル隊長はアルトの姿を見た瞬間、足を止めた。
「……アルト?」
一瞬、何が起きているのか理解できなかった。
だが次の瞬間、怒気を帯びた声が響く。
「何故だ!」
「何故貴様がヴォルグにいる!」
「ガイストで謹慎していたはずだろう!」
さらに別の通路から足音が近づく。
ガオンとユノだった。
アーヴェル隊長の表情がさらに険しくなる。
「レオニス!」
鋭い視線がガオンへ向く。
「貴様まで何故ここにいる!」
「謹慎中の二人が揃ってヴォルグへ潜入だと!」
「何を考えている!」
ガオンは一礼する。
「申し訳ありません、アーヴェル隊長。」
「事情は後ほど、必ずご説明いたします。」
そこまで言いかけた時だった。
ガオンの視線がレテの腕の中へ向く。
血に染まったアルト。
治癒の光。
苦しそうな呼吸。
ガオンは小さく目を見開いた。
「……アルト?」
その表情から余裕が消える。
アーヴェル隊長も、改めてアルトへ目を向けた。
血に濡れた軍服。
青白い顔。
苦しげな呼吸。
小刻みに震える身体。
「……!」
怒りが一瞬で消えたわけではない。
だが、それをぶつける状況ではないと悟る。
「オーズィラ!」
隊長としての声が飛ぶ。
「治癒は!」
「やっています!」
レテは涙を拭う暇もなく答えた。
「傷は塞がっています!」
「ですが……!」
アルトの手を強く握る。
「目を覚まさないんです!」
「脈も……どんどん弱くなっています……!」
アーヴェル隊長は静かにアルトの傍へ膝をついた。
傷は治っている。
それなのに、命だけが静かに消えようとしていた。
「……何があった。」
誰へ向けた言葉でもなかった。
ガオンもアルトを見つめたまま、言葉を失っていた。
彼にも、この状態が何なのかは分からない。
その場にいる誰一人として、アルトの身に何が起きているのか説明できる者はいなかった。




