前へ崩れる
◇
レテは、轟音の響いた方角へ歩を進めていた。
床を伝う振動は、まだ収まっていない。
遠くで何かが砕ける音。
続いて、獣の咆哮にも似た叫び声が施設内へ響き渡る。
傍らに浮かぶディーネは、今も小さな身体を震わせていた。
「ディーネ……」
レテは足を止め、胸元へそっと手を添える。
「私の中へ」
ディーネは一瞬だけ躊躇うようにレテを見つめた。
だが、再び奥から轟音が響くと、その身体をさらに縮こまらせる。
やがて淡い水色の光へ変わり、レテの胸元へ吸い込まれていった。
「大丈夫です」
自分へ言い聞かせるように呟き、再び歩き始める。
先へ進むほど、音は大きくなっていった。
金属が弾ける音。
壁が崩れ落ちる音。
そして、その中に混じる誰かの叫び声。
「……?」
レテの足が止まった。
聞き覚えがある。
何度も聞いた声。
明るく、無鉄砲で。
精霊のことになると、周りが見えなくなる彼の声。
「アルト君……?」
直後。
「返せぇぇぇ!」
遠くから、はっきりと叫び声が届いた。
「アルト君!」
レテは走り出した。
なぜ彼がここにいるのか。
彼はガイストで軟禁されていたはずだ。
どうしてヴォルグにいるのか。
誰と来たのか。
疑問はいくつも浮かんだ。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
確かにアルトの声がした。
それだけで十分だった。
「アルト君!」
薄暗い通路を駆け抜ける。
角を曲がる。
その先には、無数のフェルギアの残骸が転がっていた。
腕を失った機体。
胸部を陥没させた機体。
壁へめり込み、完全に動きを止めた機体。
どれも力任せに叩き潰されたように壊れている。
「これを……アルト君が?」
驚いている暇はない。
残骸の間を縫い、さらに奥へ進む。
大きく破壊された壁の向こう。
そこには、広い空間があった。
その中央に立つ、巨大なガラス容器。
中には、精霊のような姿をした小さな存在が閉じ込められている。
「……精霊?」
レテは一瞬だけ目を奪われた。
見たことのない姿。
けれど、間違いなく精霊に近い何か。
その小さな存在は、必死にガラスへ手を押し当てていた。
視線の先。
血まみれの少年が立っていた。
全身に傷を負い。
服は裂け。
手にしていた《砕》も、今にも落ちそうなほど力なく握られている。
「アルト君……」
その瞬間。
アルトの身体から力が抜けた。
《砕》が床へ落ちる。
膝が折れ、ゆっくりと前へ崩れていく。
「アルト君!」
レテは全力で駆け出した。




