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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
工場国家ヴォルグ編

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自壊の力

 アルトは再び《タイタン》へ向かって走り出した。


 床を蹴るたび、傷口が開く。


 身体の奥では《魔脈》が脈打ち、無理やり力を引き出し続けていた。


 速い。


 だが、痛みが消えたわけではない。


 むしろ、動くたびに全身が悲鳴を上げている。


『《フォートレス》』


 ガレスの声が響く。


 《タイタン》が大盾を地面へ突き立て、全重量をその一点へ預けた。


 先ほどまでのアルトなら、どう足掻いても崩せなかった構え。


「だったら!」


 アルトは速度を緩めない。


 真正面から大盾へ飛び込んだ。


「砕牙!」


 《砕》が盾へ突き刺さる。


 轟音。


 床へ固定された《タイタン》の巨体が、わずかに後退した。


『まだだ』


 ガレスは盾を押し返す。


 《タイタン》の重量が、一気にアルトへ襲いかかった。


「ぐっ……!」


 両腕が軋む。


 《魔脈》で引き上げられた力をもってしても、正面から押し切るには重すぎる。


 足元の石床が砕け、アルトの身体が少しずつ後ろへ押し戻されていく。


 背後にはエーテルの容器。


 ここで退けば、またあの子の前まで押し込まれる。


「退くかよ……!」


 アルトは《砕》を盾へ押し当てたまま、腰を落とした。


 身体の奥で、もう一度《魔脈》が強く脈打つ。


 視界が一瞬揺れた。


 鼻から血が流れる。


 それでも力を緩めない。


『その力』


 ガレスは計器へ視線を走らせる。


『使うほど、貴様の身体を壊しているな』


「だったら何だよ!」


『長くは保たん』


「長く保たせるつもりなんかねぇ!」


 アルトは叫び、右足を強く踏み込んだ。


「今、勝てればいい!」


 《砕》を盾へ押し当てたまま、身体を捻る。


「砕衝!」


 衝撃が一点へ集中する。


 大盾の表面が大きく震え、《タイタン》の両脚が床から浮いた。


『何――』


「砕円!」


 アルトはそのまま回転する。


 《砕》が盾の縁を捉え、受け流すように横へ弾いた。


 《フォートレス》の構えが崩れる。


 大盾が開いた。


「今だ!」


 アルトは《タイタン》の懐へ潜り込む。


 胸部装甲。


 先ほど《砕連》で入れた亀裂が、まだ残っている。


「砕撃!」


 《砕》を下から振り上げる。


 ガギィン!


 亀裂が大きく広がった。


 だが、ガレスも黙ってはいない。


『《シールドバッシュ》』


 開いていた大盾が横から迫る。


「しまっ――」


 避けきれない。


 大盾の縁がアルトの身体を捉えた。


 鈍い衝撃。


「がっ!」


 アルトの身体が大きく弾き飛ばされる。


 床を転がり、何度も身体を打ちつけた。


 《魔脈》が解除されかけ、全身を巡る光が一瞬弱まる。


「ギィ!」


 エーテルの声が響く。


 アルトは歯を食いしばり、床へ《砕》を突き立てた。


「まだ……!」


 無理やり身体を止める。


 呼吸が乱れる。


 胸が焼けるように痛い。


 それでも、膝をついたまま顔を上げた。


 《タイタン》の右手では、大斧が高く掲げられている。


『これで終わりだ』


 ガレスの低い声。


 大斧が振り下ろされる。


 アルトは立てない。


 避けることも間に合わない。


 それでも《砕》を両手で構えた。


「来いよ……!」


 大斧と《砕》が激突する。


 ガァァァン!


 凄まじい衝撃が部屋全体へ広がった。


 アルトの膝が床へめり込む。


 両腕から血が噴き出す。


「ぐぅぅぅぅ……!」


 大斧は止まらない。


 少しずつ《砕》を押し下げていく。


『もう限界だ』


「勝手に……決めんな!」


 アルトの全身を巡る光が再び強まる。


 だが、その直後。


 胸の奥から何かがこみ上げた。


「ごほっ……!」


 血を吐く。


 視界が暗くなった。


 《魔脈》の反動が、身体を内側から壊し始めている。


 それでもアルトは《砕》を離さない。


「この子を……!」


 背後の容器へ一瞬だけ目を向ける。


 エーテルが両手をガラスへ押し当て、必死に鳴いている。


「置いて……いけるかよ!」


 アルトは吠えた。


 《砕》を支える両腕へ、最後の力を込める。


 ほんのわずか。


 大斧が押し返された。


『なに……』


 ガレスが目を見開く。


 アルトは立ち上がった。


 足は震えている。


 身体中から血が流れている。


 それでも、大斧を押し返しながら一歩前へ出た。


「まだ……終わってねぇぞ」


 その目だけは、少しも折れていなかった。

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