魔脈
「――《魔脈》!」
ドクン。
アルトの身体の奥で、強い鼓動が鳴った。
もう一度。
ドクン。
その音に合わせ、全身へ熱い何かが駆け巡る。
浮かび上がった血管が淡く輝き、傷ついた身体の内側から力が溢れ出した。
床へ滴り落ちていた血が、微かな震動で揺れる。
『……何だ』
ガレスが低く呟いた。
《タイタン》の操縦席で、複数の計器が一斉に反応する。
『高密度反応を感知』
『発生源――対象の体内』
『精霊反応、確認できず』
「精霊の霊素ではない……?」
ガレスは表示された数値を見つめた。
精霊術なら、必ず力を与える精霊がいる。
だが、アルトの周囲には何もいない。
容器の中の精霊とも繋がっていない。
あの少年自身から、見たことのない力が噴き出している。
「人間が……自ら力を生み出しているだと?」
あり得ない。
人間が精霊を介さず、魔素をそのまま扱うことなどできない。
少なくとも、ガレスの知る常識では。
アルトが顔を上げる。
先ほどまで苦痛に歪んでいた表情から、迷いが消えていた。
「行くぞ」
《砕》を握る。
ただそれだけで、アルトの足元へ亀裂が走った。
次の瞬間。
姿が消えた。
『何――』
警告音が鳴るより早く、アルトは《タイタン》の目前へ踏み込んでいた。
「砕牙!」
《砕》が大盾へ叩き込まれる。
ドゴォン!
先ほどまで微動だにしなかった《タイタン》が、盾ごと大きく仰け反った。
巨体の両脚が床を削り、数歩分も後退する。
『馬鹿な……!』
ガレスが大盾を立て直す。
だが、アルトはもう目の前にいない。
「こっちだ!」
声は側面から聞こえた。
「砕衝!」
《砕》の石突きが《タイタン》の膝へめり込む。
衝撃が装甲を貫き、巨大な脚部が浮き上がった。
体勢が崩れる。
アルトは回転しながら、さらに《砕》を振り抜く。
「砕円!」
重い一撃が脇腹へ突き刺さる。
《タイタン》の巨体が横へ弾かれ、床へ片膝をついた。
ガレスの表情から、初めて余裕が消えた。
「この力は……何だ」
精霊術ではない。
フェルギアの技術でもない。
ガレスがこれまで戦場で見てきた、どの力とも違う。
アルトは《砕》を肩へ担ぎ、荒い息を吐いた。
傷が治ったわけではない。
身体の痛みも消えていない。
ただ、無理やり限界を押し広げているだけだ。
「知らねぇ」
アルトは血の混じった唾を吐き捨てる。
「オレも、よく分かってねぇからな」
そして、再び《タイタン》へ向かって走り出した。




