大丈夫だ
◇
アルトは、《タイタン》の大盾を前に《砕》を構えていた。
深い茶色の巨体が、一歩踏み出す。
ズン、と床が沈み、部屋全体へ重い振動が広がった。
左手には、機体の半身を覆うほどの大盾。
右手には、分厚い刃を持つ巨大な戦斧。
そのどちらも、まともに受ければ人の身体など簡単に押し潰すだろう。
だが、アルトは退かなかった。
背後には、超硬化ガラスへ閉じ込められたエーテルがいる。
「ギィ……」
不安そうな声が聞こえる。
アルトは振り返らず、《砕》を握る手に力を込めた。
「大丈夫だ」
「すぐ終わらせる」
《タイタン》の大盾が持ち上がる。
『来い、アルト』
ガレスの低い声が機体の中から響いた。
『貴様が選んだものを、俺に示してみろ』
「言われなくても!」
アルトは床を蹴った。
一気に距離を詰め、《砕》を振り上げる。
「砕牙!」
鋭い一撃が、大盾へ叩き込まれた。
轟音。
衝撃が部屋を揺らす。
だが、《タイタン》は僅かに後退しただけだった。
「硬っ!」
『今度はこちらだ』
大盾が押し出される。
アルトは咄嗟に《砕》を横へ構えた。
次の瞬間。
巨大な盾が、壁のように迫る。
「ぐっ……!」
受け止めた両腕が軋む。
足元の床を削りながら、アルトの身体が後方へ押し戻されていく。
このままでは、背後の容器まで押し込まれる。
「させるかよ!」
腰を落とし、《砕》の石突きを床へ突き立てる。
それでも《タイタン》の前進は止まらない。
『守ると言ったな』
ガレスの声には、嘲りも怒りもなかった。
『ならば耐えてみせろ』
「言われなくても……やってる!」
アルトは歯を食いしばる。
背後から聞こえる、エーテルの小さな声。
それだけで、腕へもう一度力が入った。
「砕衝!」
《砕》から衝撃が弾ける。
大盾が大きく跳ね上がり、《タイタン》の前進が止まった。
アルトはその隙を逃さない。
盾の脇を抜け、機体の懐へ潜り込む。
「砕連!」
一撃。
二撃。
三撃。
《砕》が茶色い装甲へ連続で叩き込まれる。
鈍い音が響き、胸部装甲へ小さな亀裂が走った。
『見事だ』
「余裕ぶってんな!」
アルトがさらに踏み込もうとした瞬間。
《タイタン》の右腕が動いた。
巨大な戦斧が横薙ぎに振るわれる。
アルトは身を沈める。
刃が頭上を通過し、その風圧だけで髪が激しく揺れた。
直後、戦斧が軌道を変える。
「なっ――」
振り抜いた勢いのまま、刃が下から跳ね上がった。
アルトは《砕》で受ける。
ガギィィン!
重い。
腕ごと持ち上げられ、身体が宙へ浮く。
「うおっ!」
そのまま床へ叩きつけられた。
背中へ衝撃が走り、息が詰まる。
『まだ立てるか』
アルトは咳き込みながら、すぐに身体を起こした。
「当たり前だろ」
口元を拭い、《砕》を構え直す。
「この子を助けるまで、倒れるつもりねぇからな」
ガレスは答えなかった。
代わりに、《タイタン》が大盾を地面へ突き立てる。
『《フォートレス》』
低い声。
大盾を中心に、機体全体が沈み込むような構えを取る。
先ほどまでとは違う。
ただ盾を構えただけではない。
全重量を地面へ預け、衝撃を受け止めるための姿勢。
アルトは目を細めた。
「だったら――」
《砕》を両手で握り、深く腰を落とす。
全身の力を一箇所へ集める。
「その盾ごと、ぶっ壊す!」
アルトが踏み込んだ。




