最高の鍛冶屋だよ
ログは霊器となった《崩槌》を静かに肩へ担ぐ。
茶色い霊素がゆっくりと槌へ流れ込み、その光は大地へも広がっていく。
「……あー。」
ログはゼインを見据え、小さく笑った。
「あともう一つ、教えることがあったわ。」
「死ねぇぇぇ!」
《レイス》が咆哮する。
巨大な大鎌が一直線に振り下ろされた。
ガキィィィン!!
霊器となった《崩槌》が、その一撃を真正面から受け止める。
「なっ……!」
ゼインの目が見開かれる。
大鎌の刃に一本の亀裂が走る。
ピシ……
ピシピシ……
亀裂は瞬く間に刃全体へ広がり――
バキィィン!!
大鎌は粉々に砕け散った。
ログは《崩槌》をゆっくりと横へ構える。
「スミスマンは。」
静かな声が響く。
「腕が少し良い鍛冶屋じゃねぇ。」
アルゴスが力強く鳴く。
「モォォォ!!」
その声に応えるように、大地が震えた。
周囲の土と鉄が茶色い霊素へ導かれ、《崩槌》へ集まっていく。
槌頭はさらに巨大となり、《レイス》を覆い尽くすほどの大きさへ変貌した。
ログは静かに踏み込む。
「最高の鍛冶屋だよ。」
《崩槌》を大きく振り上げる。
「《天工鎚》ッ!!」
轟音とともに、巨大な槌が《レイス》へ振り下ろされる。
ゼインの表情が変わった。
「待てぇ!」
巨大な槌を見上げ、叫ぶ。
「そんなでけぇもんで殴ったら、羽……!」
一瞬言葉に詰まり、慌てて言い直す。
「精霊まで死んじまうぞ!」
ログの腕は止まらない。
「言ってろ。」
短く吐き捨てる。
ゼインはなおも叫ぶ。
「お前、精霊を助けたいんだろ!」
「だったら振れねぇはずだ!」
ログは静かに《崩槌》を振り抜いた。
「壊すもんと。」
茶色い霊素が《レイス》全体へ駆け巡る。
「残すもんぐらい。」
霊素は装甲や内部骨格へ染み込み、ガラス筒だけを避けるように流れていく。
「選べんだよ。」
「なっ……!」
ゼインの顔から余裕が消えた。
次の瞬間。
ドゴォォォォォン!!
《天工鎚》が《レイス》を叩き潰す。
衝撃は脆化した装甲を貫き、内部へ浸透する。
胸部。
腕部。
脚部。
駆動部。
鉄だけが悲鳴を上げるように砕け散っていく。
一方で、精霊の閉じ込められたガラス筒だけは茶色い霊素に守られ、静かに地面へ転がった。
「ふ……!」
ゼインの声が震える。
「ふざけんなぁぁぁぁぁーーー!!」
バギィィィィン!!
《レイス》は内部から完全に崩壊した。
吹き飛ばされたゼインは操縦席ごと宙を舞い、壁へ激突する。
鈍い音を立て、そのまま動かなくなった。
静寂が訪れる。
ログはゆっくりと息を吐き、倒れたゼインを見下ろした。
「……大真面目だ。」
ゆっくりと呟く
「馬鹿野郎。」
霊器《崩槌》は淡い茶色の光へと変わり、ゆっくりとログの身体へ溶け込んでいく。
役目を終えたように、その光は静かに消えた。
ログの膝から力が抜ける。
「……糸目……。」
霞む視界の中、ユノの顔が浮かぶ。
「……探しに……行かねぇと……。」
ドサッ。
その場へ倒れ込む。
「モォォォォ!!」
アルゴスが慌てて駆け寄り、悲しげに鳴きながらログへ寄り添う。
その周囲では、救われた精霊たちがゆっくりとガラス筒の中で顔を上げていた。
ログの勝利だった。




