紋章
《レイス》がログの腕を踏みつける。
鈍い音とともに《崩槌》が床へ転がった。
「ぐっ……!」
ログの腕が力なく地面へ落ちる。
ゼインはゆっくりと《レイス》の大鎌を持ち上げ、その刃をログの首元へ突きつけた。
「クックク……。」
愉快そうな笑い声が響く。
「羽虫のせいで、お前は死ぬ。」
ログは歯を食いしばる。
悔しさよりも、胸に抱えた精霊が無事だったことだけが救いだった。
ゼインはアルゴスへ目を向ける。
ログの傍らで、心配そうに寄り添う契約精霊。
「安心しろ。」
ゼインは口元を歪めた。
「お前の周りを飛び回ってる汚ぇ羽虫も、俺の《レイス》のエネルギーに変えた後――」
大鎌を僅かに押し込む。
「まとめて踏み潰してやるからよぉ!」
「クックク……クッククックク!」
耳障りな笑い声が研究施設へ響く。
その時だった。
「……あ〜?」
ゼインの視線が、床へ転がる《崩槌》へ止まる。
柄に刻まれた紋章。
それを見た瞬間、ゼインの笑みがさらに深くなった。
「このシンボル……。」
「スミスマンの紋章じゃねぇか。」
ログの表情が僅かに変わる。
ゼインは見逃さなかった。
「お前……。」
「これをスミスマンから買ったのかぁ?」
一拍置く。
「いや……ガイスト軍だったな。」
ゼインの目が細くなる。
「もしかして、お前……。」
「スミスマンの血筋か?」
ログは血を吐きながら睨み返した。
「……だったら、なんだ。」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「クック……。」
「クッククッククッククッ!!」
ゼインは腹を抱えて笑い始めた。
「今日はなんていい日なんだ!」
「羽虫とつるむ精霊術師を殺せるだけでも最高なのによぉ!」
《レイス》の大鎌がログの首へさらに近づく。
「まさかスミスマンの裏切り者まで殺せるなんてなぁ!」
ログの眉が動く。
「……どういう事だ。」
「知らねぇのか?」
ゼインは心底愉快そうに笑う。
「お前の先祖は、このヴォルグを裏切ったんだよ。」
ログは黙って聞いている。
「鍛冶の腕が少し良かったからって調子に乗りやがって。」
「精霊と共存する未来だぁ?」
「人間と精霊は支え合うべきだぁ?」
ゼインは吐き捨てるように笑う。
「笑わせるな!」
「バルドゥル司令のひい祖父様が掲げた精霊奴隷化計画に真っ向から逆らいやがった。」
「国の発展を邪魔し、仲間を惑わせ、勝手にヴォルグを捨てた。」
「その結果どうなった?」
ゼインは肩を震わせる。
「居場所を失って、惨めに逃げ出した敗残者の一族だ!」
「誇り高き鍛冶屋?」
「違うな。」
「国を裏切り、羽虫に尻尾を振った腰抜けどもだ!」
ゼインは《崩槌》を顎で指した。
「その武器も、お前の一族が作ったんだろ?」
「笑えるよなぁ。」
「自分たちが捨てた国の兵器に、今度は自分たちが殺されるんだからよぉ!」
「クッククッククッククッ!!」




