羽虫の交換
◇
その頃。
ユノを地下へ落とされたログは、一人、《レイス》と対峙していた。
《崩槌》を強く握り締める。
「《岩砕》!」
轟音とともに地面が隆起し、巨大な岩塊が《レイス》へ襲いかかった。
「ククク……」
《レイス》は大鎌を軽く振る。
凶刃が岩塊を真っ二つに裂き、そのまま左右へ弾き飛ばした。
「真っ直ぐすぎるんだよ。」
ゼインが下卑た笑みを浮かべる。
ログは舌打ちした。
「チッ……」
その時だった。
「……おや?」
ゼインが《レイス》の脚部へ目を向ける。
機体の動きが僅かに鈍っていた。
「これは……羽虫の交換が必要だなぁ?」
《レイス》の外部へ取り付けられたガラス筒へ手を伸ばす。
中では、一体の精霊が苦しそうに震えていた。
ゼインは躊躇なくガラス筒を引き抜き、地面へ放り投げる。
ガシャン。
鈍い音とともに転がるガラス筒。
同時に、《レイス》の脚部装甲がゆっくりと開いた。
内部から、新しいガラス筒がせり出してくる。
ゼインはそれを慣れた手つきで装着した。
《レイス》の動きが元に戻る。
「やっぱ新品は違うなぁ。」
ゼインは足元へ転がる古いガラス筒を見下ろえた。
「じゃあ――」
《レイス》がゆっくりと足を持ち上げる。
「ゴミは処分だぁ!」
「なっ……!」
ログの表情が変わる。
「やめろぉ!」
全力で地面を蹴る。
《レイス》の足が振り下ろされる寸前、ログはガラス筒を抱き抱えるように飛び込んだ。
ドゴォンッ!!
《レイス》の足が、ログの背中へ叩きつけられる。
「ぐっ……!」
頭から鮮血が飛び散った。
全身の骨が軋む。
それでもログは腕を緩めない。
抱えたガラス筒だけは、決して離さなかった。
「あーあ。」
ゼインが肩をすくめる。
「せっかく羽虫が散るところを見られると思ったのによぉ。」
《レイス》が足をどける。
次の瞬間、その蹴りがログの腹へ突き刺さった。
「がはっ!」
ログの身体が宙を舞う。
何度も地面を転がり、最後は壁へ激突した。
激しい音が響く。
「モォォ!」
アルゴスが慌ててログのもとへ駆け寄った。
心配そうに鼻を鳴らし、その身体へ顔を寄せる。
ログは霞む視界の中で、胸に抱えたガラス筒を見下ろした。
中の精霊は怯えながらも、無事だった。
「……よかった。」
ログは小さく笑う。
その姿を見たゼインは、心底愉快そうに笑い声を上げた。
「ククク……自分より羽虫を優先か。」
「だからお前らガイストは甘いんだよ。」




