異端の来訪者⑥
アーヴェルはしばらく黙っていた。
目の前の青年を見る。
精霊に拒絶される存在。
それだけなら、まだ理解できる。
精霊との相性が悪い者。
契約に至れない者。
そういった人間は、決して珍しくはない。
だが。
「……あり得ない。」
アーヴェルが静かに呟いた。
「え?」
アルトが首を傾げる。
「精霊の声を聞く。」
アーヴェルは続ける。
「それは、簡単にできることではない。」
ミレイアも真剣な表情で頷く。
「精霊を見ることとは意味が違うわ。」
「姿を認識することは、多くの人間にできる。」
「でも声を聞くというのは、精霊の意思を受け取るということ。」
「精霊との深い繋がりがなければ不可能なの。」
レテは黙って聞いていた。
自分自身、契約した精霊の存在を誰より近く感じている。
だから分かる。
アルトの言葉が、どれほど異常なのか。
「しかも。」
アーヴェルの視線が鋭くなる。
「お前の場合、精霊はお前を避けている。」
「拒絶している相手の声を、なぜ拾えるのか。」
「説明がつかない。」
アルトは困ったように笑う。
「俺にも分からない。」
「昔からそうだから。」
⸻
アーヴェルは静かに息を吐いた。
判断する。
「アルト。」
「はい。」
「悪いが、一時拘束する。」
アルトが目を瞬く。
「俺が危険だから?」
「ああ。」
アーヴェルは迷わず答える。
「正確には。」
「危険ではないと判断する材料が足りない。」
「お前に敵意がないことは理解している。」
「だが、未知の存在を安全だと決めつけることもできない。」
アルトは少し考えた。
そして。
「分かった。」
素直に腕を差し出す。
⸻
「隊長。」
その時。
扉が開いた。
「上層部から指示です。」
入ってきた兵士へ、アーヴェルが視線を向ける。
「……名前は。」
「ヴァイスです。」
「報告しろ。」
「はい。」
ヴァイスは書類を差し出した。
「対象アルトの拘束を解除せよ。」
短い命令。
アーヴェルの目が細くなる。
「理由は?」
「記載されていません。」
沈黙。
誰が判断したのか。
それは書かれていない。
だが。
命令である以上、従うしかない。
「分かった。」
アーヴェルは書類を閉じる。
「拘束は解除する。」
⸻
アルトが腕を戻す。
「もういいのか?」
「ああ。」
アーヴェルは頷く。
「ただし、監視は必要だ。」
そして。
レテを見る。
「オーズィラ。」
「はい。」
「お前が担当しろ。」
レテは少し驚いた。
「私が、ですか?」
「ああ。」
「お前は彼を最初に確認している。」
「戦闘も見ている。」
「そして、精霊術師として彼を観察できる。」
レテはアルトを見る。
無邪気に周囲を見回している青年。
精霊に拒絶されながら、それでも精霊を求める存在。
「……分かりました。」
レテは頷いた。
「私が監視します。」
アーヴェルは短く返す。
「頼む。」
こうして。
精霊に拒絶された青年は。
精霊国家ガイストで、初めての居場所を得ることになる。




