異端の来訪者⑤
ミレイアは椅子へ腰を下ろすと、改めてアルトを見る。
「じゃあ、順番に確認していきましょうか。」
「まず。」
ペンを構える。
「精霊の姿は見える?」
「見える。」
アルトは迷わず答えた。
「光みたいなやつだろ?」
「火なら赤っぽくて、水なら青っぽい感じ。」
「風は少し分かりにくいけど、いる場所は分かる。」
ミレイアは頷きながら書き込む。
「なるほど。」
「そこは普通ね。」
レテが少し意外そうな顔をする。
ミレイアは説明するように続けた。
「精霊を見ること自体は珍しくないの。」
「多くの人間は、精霊を淡い光や輪郭として認識できる。」
「契約していないから見えない、というわけではないわ。」
アルトは頷く。
「そうなのか。」
「うん。」
ミレイアはペンを動かしながら、次の質問へ移る。
「じゃあ……」
少し間を置いて。
「声は?」
「声?」
アルトが首を傾げる。
「そう。」
ミレイアは少し笑った。
「精霊の声まで聞こえる人って、かなり少ないから。」
「……まあ、さすがに聞こえないよねー?」
軽い調子。
ただの確認だった。
だが。
「聞こえる時もある。」
アルトの返答に。
ミレイアの手が止まった。
「……え?」
部屋の空気が変わる。
「今、なんて言ったの?」
「だから。」
アルトは不思議そうに答える。
「たまに聞こえる。」
「いつもじゃないけど。」
アーヴェルの視線が鋭くなる。
「どんな時だ。」
アルトは少し考える。
「精霊が逃げる時。」
「逃げる時?」
「うん。」
アルトは頷く。
「俺が近づくと、いつも逃げるんだけど。」
「その時に、たまに聞こえる。」
「何と言っている?」
ミレイアが静かに尋ねる。
アルトは眉を寄せる。
「はっきりとは分からない。」
「でも……。」
「近づくな。」
「嫌だ。」
「怖い。」
ぽつり、ぽつりと言葉にする。
「そういう感じ。」
沈黙。
ミレイアはゆっくりとペンを置いた。
「……。」
先ほどまで楽しそうだった瞳が、少しだけ真剣になる。
「アルト君。」
「それは、本当に精霊の声?」
「うん。」
アルトは即答した。
「他の音とは違うから分かる。」
アーヴェルは黙ったままアルトを見る。
精霊を見る。
それは珍しくない。
精霊の気配を感じる。
それも特別ではない。
だが。
精霊の声を聞く。
そして。
精霊に拒絶されながら、その意思だけを拾っている。
そんな存在は、彼の知る限り存在しなかった。




