助けたいからだ
ガレス・グラントは容器の中のエーテルへ静かに視線を向けた。
不安そうに身を縮める小さな精霊。
その姿を見ても、表情は変わらない。
やがてアルトへ向き直る。
「その精霊を連れて帰るつもりか。」
「ああ。」
「無理だ。」
「やってみなきゃ分かんねぇ。」
「違う。」
ガレスは首を横に振る。
「その超硬化ガラスは、外から破壊することを前提に設計されていない。」
アルトは眉をひそめた。
「どういう意味だ。」
「無理に破壊すれば、内部の安全装置が作動する可能性がある。」
「安全装置?」
「俺も詳しくは知らん。」
ガレスは正直に答えた。
「Dr.ヴェルナーが造った設備だ。解除方法も、俺には知らされていない。」
アルトは舌打ちする。
「ちっ……。」
「だからやめておけと言った。」
「だからって放っておけるか。」
アルトは容器へ手を当てる。
エーテルも、小さな手をガラスへ重ねた。
「ギィ……」
「大丈夫だ。」
アルトは笑って見せる。
「絶対助ける。」
その言葉を聞いたガレスは、小さく目を細めた。
「貴様。」
「何だ。」
「その精霊と知り合いなのか。」
「違う。」
「初対面だ。」
即答だった。
「だったら、なぜそこまでする。」
アルトはガレスを真っ直ぐ見た。
「助けたいからだ。」
「それだけか。」
「ああ。」
迷いは一切なかった。
「苦しんでる奴がいたら助ける。」
「それだけだ。」
ガレスは黙り込む。
軍人として多くの人間を見てきた。
利益のために戦う者。
名誉のために戦う者。
復讐のために剣を振るう者。
だが。
「助けたいから助ける」
そんな理由だけで敵国へ乗り込んでくる人間は、初めてだった。
「……変わった奴だ。」
「よく言われる。」
アルトは肩をすくめる。
「でも、助けない理由にはならねぇ。」
《砕》を握り直す。
「どけ。」
「断る。」
ガレスも一歩前へ出る。
「俺はこの部屋を守る。それが任務だ。」
「じゃあ。」
アルトは《砕》を静かに構えた。
「ぶっ飛ばしてから助ける。」
ガレスは静かに頷く。
「その覚悟、見せてもらおう。」
部屋の空気が一変する。
互いの視線がぶつかり合い、次の瞬間――静寂が戦いの幕開けを告げた。




