大男
◇
――少し、時は遡る。
「ライの奴……何しやがった?」
突然響いた轟音。
施設全体が大きく揺れ、天井から砂埃が舞い落ちる。
しばらくして揺れは収まる。
代わりに施設中へ甲高い警戒音が鳴り響いた。
赤い警告灯が点滅し、無機質な警報が通路を埋め尽くす。
「……今なら」
アルトは辺りを見回した。
あれだけ派手に暴れたのだ。
警備はライのいる方へ向かっているはず。
今なら、この部屋には誰も来ない。
アルトは容器へ駆け寄る。
透明なガラスの向こうでは、小さな精霊――エーテルが不安そうにこちらを見つめていた。
「少し離れてくれ。」
アルトは魔器《砕》を構える。
「今から、これぶっ壊すから。」
「ギィ?」
エーテルは首を傾げる。
「ギィギィ!」
意味が伝わったのか、小さく鳴くと、容器の奥へと下がった。
「よし。」
アルトは《砕》を握り直す。
「砕牙!」
《砕》を勢いよく振り抜く。
鈍い衝撃音が部屋へ響く。
しかし、ガラスには傷一つ入らない。
「……硬ぇ。」
アルトは目を丸くする。
「なら!」
「砕円!」
回転を加えた一撃。
それでも容器は揺れるだけだった。
「かってーな!」
アルトは一歩下がる。
「砕牙!」
ドンッ!
「砕衝!」
ドォン!
「砕円!」
ゴンッ!
「砕撃!」
「砕連!」
次々と《砕》を叩き込む。
重い衝撃が部屋中へ響き渡る。
それでも超硬化ガラスは、わずかに震えるだけだった。
アルトは荒く息を吐く。
「……だったら!」
《砕》を両手で握る。
全身の力を柄へ乗せ、深く踏み込む。
一瞬、静寂が訪れた。
「砕砲ッ!!」
轟音。
爆発のような衝撃が部屋中へ駆け抜ける。
容器の周囲へ衝撃波が広がり、床に置かれた器具が吹き飛ぶ。
だが――
ガラスは砕けない。
「はぁ……はぁ……」
アルトは《砕》を肩へ担ぎ、小さく息を吐いた。
「砕砲でもダメなのかよ……」
「やめておけ。」
低い声が部屋へ響く。
「それはDr.ヴェルナーが作った超硬化ガラスだ。」
アルトが勢いよく振り返る。
「誰だ!」
入口には、一人の大男が静かに立っていた。




