白銀の影
ガオンは両腕を軽く振った。
赤熱していた拘束具の残骸が床へ落ち、じゅっと音を立てる。
「これで動ける」
「その前に少し待ってください」
「なぜだ」
「《活火》を強くかけすぎました。急に動くと身体を痛めますよ」
「問題ない」
ガオンは一歩踏み出した。
その足元で、まだ柔らかい鉄格子がぐにゃりと沈む。
ユノは黙ってそれを見下ろした。
「……本当に人間です?」
「失礼な奴だな」
「こちらの台詞ですよ。僕とキュウまで蒸し焼きにするつもりでした?」
肩へしがみついたままのキュウも、抗議するように鳴いた。
「悪かった」
ガオンは素直に頭を下げる。
その態度が予想外だったのか、ユノは僅かに言葉を詰まらせた。
「……分かればいいです」
「それより、もう一度かけられるか?」
「嫌ですよ」
「なぜだ」
「今ので危険だと分かったばかりでしょう」
「だが、力は出た」
「力が出れば何でもいいという考え方、やめてもらえます?」
ガオンは不満そうに眉を寄せた。
ユノはその横を抜け、溶けた鉄格子の外へ出る。
薄暗い通路には、同じような牢がいくつも並んでいた。
どれも扉は閉ざされ、中から人の気配はしない。
「ここがどの辺りなのか分かります?」
「地下だ」
「それは僕にも分かります」
「俺が運ばれてきた時は眠っていた」
「役に立ちませんねぇ」
「お前はどうなんだ」
「床が抜けて落ちてきました」
「同じだな」
「一緒にしないでください」
ユノは《燈環》の先へ狐火を灯し、通路の奥を照らした。
左右に分かれた道。
どちらからも、風は流れてこない。
「さて、どうしましょうか」
「上へ行く」
「道が分からないんですけど」
「なら、壁を壊す」
「さっき出たばかりですよね?」
ガオンは近くの壁へ拳を向けた。
ユノが慌てて、その腕を掴む。
「待ってください」
「何だ」
「こんな地下で適当に壁を壊したら、全部崩れるかもしれません」
「その時は上へ出られる」
「生き埋めになりますよ」
「俺は平気だ」
「僕が平気じゃないんです」
ユノが睨むと、ガオンは渋々拳を下ろした。
その時。
遠くから、重い金属音が響いた。
規則正しい足音。
一歩ごとに、床が小さく震えている。
ユノとガオンは同時に通路の奥へ目を向けた。
「誰か来ますね」
「ちょうどいい」
ガオンが笑う。
「道を聞けばいい」
「その前に殴るつもりでしょう」
「必要ならな」
「必要かどうかは僕が決めます」
狐火に照らされた通路の先。
白銀の巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。




