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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
工場国家ヴォルグ編

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灰に出来るほどの火力

 ユノは《燈環》を支えにして、ゆっくりと立ち上がった。


 全身に痛みは残っている。


 だが、ここで座り込んでいても状況は変わらない。


「とりあえず、出られるか試してみます」


「頼む」


 ユノは鉄格子へ近づき、錠前へ《燈環》の先端を向けた。


 傍らでキュウが尾を振る。


「《火撃》」


 先端から放たれた炎が、錠前を直撃した。


 火花が散り、牢内が一瞬だけ赤く染まる。


 しかし、炎は鉄へ触れた途端、吸い込まれるように消えてしまった。


「……あれ?」


 ユノは錠前を覗き込む。


 表面には焦げ跡すら残っていない。


 もう一度、《燈環》を構える。


「《火撃》」


 結果は同じだった。


 炎は鉄格子へ届いた瞬間に形を失い、霧散する。


 ユノは細い目をさらに細めた。


「なるほど。牢そのものに術式が組み込まれていますね」


「術式?」


「触れた霊素を断ち切って、精霊術を消しているみたいです」


 ユノは《燈環》の先で鉄格子を軽く叩く。


 硬い音だけが返ってきた。


「力任せに壊すのも難しそうですねぇ」


「お前、火属性か?」


「そうですが」


 ガオンが拘束されたまま身を乗り出した。


「俺を燃やせ」


「はい?」


「燃やせ」


 聞き間違いではなかったらしい。


 ユノは無言でガオンを見つめた。


「……灰になって、鉄格子の隙間から出るつもりですか?」


「はっ!」


 ガオンが鼻で笑う。


「お前に俺を灰にできるほどの火力があるならな」


 ユノの口元から笑みが消えた。


「喧嘩を売っています?」


「事実を言っただけだ」


「……僕は火力で押し切るより、火の精霊術による支援や強化を得意とする術師なので」


「強化?」


 ガオンの目が鋭くなる。


「ああ。よし、それをやれ」


「話を最後まで聞いてもらえます?」


「俺を強化すれば、この程度の牢は壊せる」


「随分と自信がありますねぇ」


「なければ言わん」


 ユノは鉄格子とガオンを交互に見る。


 術式によって精霊術を断たれるなら、外から錠を焼き切るのは難しい。


 だが、ガオンの身体そのものを強化するなら話は別だ。


 ここで別の方法を探して時間を使うより、試す価値はある。


「……分かりました」


 ユノは小さく息を吐き、《燈環》をガオンへ向ける。


「ただし、加減が分からないので大人しくしてください」


「問題ない」


「その自信、少し分けてほしいですねぇ」


 キュウがユノの傍らへ寄り、橙色の尾を大きく揺らした。


 火の霊素が、《燈環》の環へ集まる。


「《活火》」


 柔らかな炎が、ガオンの身体を包み込んだ。


 燃え盛る火ではない。


 皮膚を焼くことも、衣服を焦がすこともなく、その内側へ染み込んでいく。


 ガオンが僅かに目を見開いた。


「これは……」


 疲労で鈍っていた筋肉が熱を取り戻す。


 身体の奥から、力が溢れ出してくる。


 ガオンは拘束された両手を見下ろし、ゆっくりと拳を握った。


「いい術だ」


「どうも」


「これならいける」


「一応聞きますけど、何をするつもりです?」


 ガオンは立ち上がった。


 しなやかな身体に、橙色の火が薄く揺らめいている。


 そして、拘束具へ繋がる鎖を両手で掴んだ。


「壊す」


「それは分かっていますが――」


 次の瞬間。


 ガオンの腕に力が込められた。


 太い鎖が悲鳴を上げる。


 ユノの細い目が、僅かに開いた。

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