魂の安寧
「勝手に抜け出した」
「そこは想像できました」
ユノは呆れたように息を吐いた。
「謹慎中の王族が、どうして敵国の牢にいるのかを聞いているんです」
「置いていかれそうだったからだ」
「……はい?」
「アーヴェル隊長たちがヴォルグへ向かうと知った。だが、俺は謹慎中だ。連れていくつもりはなかったらしい」
「謹慎中なんですから、そりゃ置いていかれますよね……」
「だから勝手にきた」
「だから、ではないと思いますけど」
ガオンは悪びれる様子もなく、拘束された両手を僅かに持ち上げる。
「途中で別行動になり、白衣の男にやられた。気づいた時にはここだ」
「随分と簡潔ですねぇ」
「長く話す必要もない」
「あると思いますよ。特に、謹慎中に勝手についてきた辺りは」
「もう済んだことだ」
「現在進行形で牢にいる人が言う台詞ではありませんね」
ユノは《燈環》を手元へ引き寄せた。
「それで、お前はどこの隊だ?」
「あの……」
ユノは眉を寄せる。
「勝手に話を進めるの、やめてもらえます?」
「俺は話した」
「必要最低限だけですけどねぇ」
「十分だ」
「その判断を勝手にしないでください」
ガオンは一瞬黙り、それからユノの軍服へ視線を落とした。
「アーヴェル隊ではないな」
「ええ。そこはご存じでしょう」
「俺はアーヴェル隊の預かりだ。隊員の顔くらい覚えている」
「でしたら、最初からそう言ってくださいよ」
「どこの隊かまでは知らん」
ユノは小さく息を吐いた。
「バルガス隊です」
その瞬間。
ガオンの表情から、ぶっきらぼうな色が消えた。
「……バルガス隊か」
「はい」
「先日の襲撃で、多くの者が命を落としたと聞いている」
「……そうですか」
ユノの声が僅かに冷えた。
同情なら聞きたくない。
だが、ガオンはそれ以上何も尋ねなかった。
拘束された両手を胸元へ寄せ、静かに背筋を正す。
「勇敢に戦い、命を落とされた者たちへ、心から哀悼の意を表する」
その口調は、先ほどまでとは違っていた。
一人の王族として。
そして、戦場へ立つ者として。
ガオンは深く頭を下げる。
「彼らが最期まで貫いた誇りと勇気に、最大の敬意を」
ユノは何も言えなかった。
形だけの慰めではない。
名も顔も知らない者たちへ、本気で敬意を払っている。
それが、声から伝わってきた。
やがてガオンは目を閉じる。
「星々よ」
静かな祈りが、冷たい牢獄へ響いた。
「天へ還った勇士たちを、その輝きで導きたまえ」
僅かな間を置き、さらに深く頭を下げる。
「彼らの魂に、永き安寧があらんことを」
ユノの傍らで、キュウも静かに身体を伏せた。
「……ありがとうございます」
ようやく出た声は、普段よりも小さかった。
ガオンが顔を上げる。
「礼を言われることではない。命を懸けて戦った者は、等しく敬われるべきだ」
ユノは《燈環》へ視線を落とした。
倒れていった仲間たちの顔が、次々と浮かぶ。
胸の奥へ押し込めていたものが、僅かに揺れた。
「……今は、僕からお願いしてアーヴェル隊長たちに同行しています」
「そうか」
「あなたの代わりというわけでもありませんが」
「分かっている」
ガオンは短く答えた。
「俺が置いていかれたのは、謹慎中だったからだ」
「自覚はあるんですね」
「だから勝手に来た」
「そこを誇らしげに言わないでください」




