お互いを補い合っているんです
跳ね上がった水が、二本の長剣へ絡みつく。
「《水縛》」
「こんな水で!」
エリナが操縦桿を押し込む。
《ヴァルキリー》の出力が上がり、強引に二本の刃を振り下ろそうとする。
だが、水は剣を止めるためのものではなかった。
ディーネが尾を振る。
左右の水流が逆方向へ動き、刃の軌道をわずかにずらした。
それだけで、レテには十分だった。
二本の剣の間へ身体を滑り込ませる。
《水凪》が閃き、《ヴァルキリー》の右腕から火花が弾けた。
「くっ!」
エリナはすぐさま左の剣を薙ぎ払う。
レテは身を引き、その刃を紙一重で躱した。
「逃がしません!」
《ヴァルキリー》が旋回する。
二本の長剣が交互に振るわれ、逃げ道を塞ぎながらレテへ迫った。
一撃。
二撃。
三撃。
レテは《水凪》で受け、流し、身体を沈める。
「《水鏡》」
床に広がった水面へ、無数の波紋が走った。
背後へ回ろうとする足音。
振り上げられた右腕。
踏み込みに合わせて生じる、機体のわずかな振動。
レテには、その全てが伝わっていた。
だが、情報を拾い上げているのは彼女一人ではない。
ディーネが水の流れを操り、危険が迫る方向をレテへ知らせる。
「そこです」
レテは振り返ることなく、《水凪》を背後へ回した。
迫っていた長剣が受け止められる。
「見えているのですか!?」
「見えてはいません」
レテは刃を受け流しながら答えた。
「でも、ディーネが教えてくれます」
小さな魚が、水面の上を滑るように泳いだ。
レテの足元へ水流が集まる。
「《水走》」
一歩。
ただそれだけで、レテの姿がエリナの視界から消えた。
「速い!」
《ヴァルキリー》が咄嗟に両剣を交差させる。
次の瞬間、《水凪》がその中心へ叩き込まれた。
激しい金属音とともに、赤い機体が後方へ押し戻される。
「剣術だけではない……」
エリナが歯を食いしばる。
「精霊術で、自分の動きを補っている……!」
「違います」
レテの傍らで、ディーネが大きく尾を振った。
《ヴァルキリー》の背後から水が立ち上がる。
「《水柱》」
噴き上がった水が機体の左腕を打ち上げた。
「後ろから!?」
エリナが反応した時には、レテが懐へ踏み込んでいる。
《水凪》が左脚の関節を正確に斬り裂いた。
火花が散り、《ヴァルキリー》の姿勢が大きく崩れる。
「私が精霊術で、自分を補っているんじゃありません」
レテは倒れかけた機体を見上げる。
「私とディーネが、お互いを補っているんです




