兎と亀③
頬を掠めた鮮血を拭い、カイルは小さく笑った。
「……無数の針で俺の風読みを鈍らせ、時差のある攻撃か。」
アーヴェルは答えない。
ただ静かに《不落》を構える。
「だが――」
カイルが《裂兎》を振り上げた。
「《爆風陣》」
轟音。
暴風が演習場を薙ぎ払い、地面へ突き立った無数の鉄針を根こそぎ吹き飛ばす。
鋼の刃も弾き飛ばされ、甲高い金属音は静かに消えていく。
カイルは《裂兎》を肩に担ぎ、笑みを浮かべた。
「で、次はどうする?」
アーヴェルは一歩も動かない。
「《鉄封》」
地面から何本もの鉄鎖が飛び出し、生き物のようにカイルへ襲い掛かる。
「《旋風刃》」
カイルは身体を高速回転させる。
風を纏った《裂兎》が鉄鎖を次々と断ち切り、鎖が四散した。
その瞬間だった。
「《鉄鎖球塊》」
切り裂かれた鉄鎖が一つへと集まり、巨大な鉄球となってカイルへ迫る。
カイルは目を細めた。
「《韋駄天翔け》」
鉄球の脇を駆け抜ける。
風と化したその身体は、一瞬でアーヴェルの懐へ潜り込んだ。
「そのまま終わりだ。」
勢いを殺さぬまま、《裂兎》を一直線に突き出す。
「《韋駄天突き》」
アーヴェルは《不落》を正面へ構えた。
鋼と風が激突――
する直前。
カイルの手首が僅かに返る。
「!」
突きが消えた。
《裂兎》は軌道を変え、下から天へと鋭く切り上がる。
「《龍昇風》」
轟ッ――!
《不落》ごとアーヴェルの身体が宙へ弾き上げられた。
腹部から胸元にかけて深い斬撃が走る。
鮮血が弧を描き、演習場へ降り注いだ。




