兎と亀
鍔迫り合いのまま、互いに力を込める。
だが、その均衡は一瞬だった。
カイルが力を抜く。
同時に身を低く沈め、《裂兎》を突き出した。
「《瞬点風》」
鋭い刺突。
アーヴェルは《不落》の腹で受け流し、その勢いのまま振り下ろす。
「《鉄杭》」
地面が唸る。
無数の鉄杭がカイルを囲むように突き上がった。
しかし。
「遅い。」
カイルの姿が風に溶ける。
鉄杭が空を貫いた。
その時にはすでに、カイルはアーヴェルの背後へ回り込んでいる。
《裂兎》が閃く。
アーヴェルは振り返ることなく《不落》を背へ回した。
ギィンッ!
火花が弾ける。
「……相変わらずだな。」
カイルが口元を歪める。
「背中は取らせん。」
「昔なら、そのまま振り返って叩き潰しに来た。」
アーヴェルは答えない。
静かに間合いを切る。
カイルは《裂兎》を肩へ担いだ。
「……貴様、変わったな。」
アーヴェルは黙って《不落》を構える。
「鉄城のクロイツ。」
「《不退》で守りを固め、圧倒的な質量で敵を押し潰す。」
「敵からすれば、まるで城を相手にしているようなものだった。」
アーヴェルは何も言わない。
「……まぁ、いい。」
カイルは小さく息を吐いた。
「俺にはもう関係ないことだ。」
静寂が流れる。
やがてアーヴェルが静かに口を開いた。
「……カイル。お前は変わらんな。」
カイルの目が僅かに細まる。
「この間のガイスト襲撃。」
「お前は、バルガス隊の者を殺していないだろう。」
「傷を見れば分かる。」
「私の隊の隊員も……セリオ以外なら、お前なら容易く止めを刺せたはずだ。」
一歩踏み出す。
「まだ、ガイストに――」
「《韋駄天翔け》」
風が爆ぜた。
アーヴェルの視界からカイルが消える。




