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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
工場国家ヴォルグ編

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独りぼっち



「……まだです」


 ユノは奥歯を噛み締めた。


 手にした錫杖を強く握り直す。


 魔器――《燈環》。


 先端を飾る金属の環に、青白い炎が灯った。


「《陽炎》!」


 錫杖を床へ打ちつける。


 甲高い音と共に熱気が噴き出し、ユノの姿が大きく揺らいだ。


 次の瞬間。


 熱に歪んだ残像だけを残し、ユノはレイスの側面へ回り込んでいた。


「《火撃》!」


 《燈環》を横薙ぎに振るう。


 先端の環から放たれた青白い炎が、レイスの装甲へ次々と襲いかかった。


 一発。


 二発。


 三発。


 爆炎が紫色の機体を飲み込み、轟音が格納庫を揺らす。


 吹き荒れる熱風に、ログは腕で顔を庇った。


「どうだ……!」


 炎がゆっくりと晴れていく。


 だが。


「クックックックッ……」


 レイスは、何事もなかったかのように立っていた。


 紫色の装甲に僅かな煤が付いているだけ。


 傷一つない。


「そんな……」


 ユノの細い目が、僅かに開く。


「終わりですか?」


 ゼインは退屈そうに首を傾げた。


「感情任せに振るった割には、随分と可愛らしい炎ですねぇ」


 レイスが大鎌を横薙ぎに振るう。


 残っていた爆炎が一息に掻き消され、ユノの身体も凄まじい風圧に吹き飛ばされた。


「ぐっ……!」


 ユノは《燈環》を床へ突き立てる。


 錫杖の先端が鉄板を擦り、激しい火花を散らした。


 数歩分押し戻されながらも、どうにか踏み止まる。


「糸目、下がれ!」


 ログがユノの前へ出た。


「そいつの装甲に、炎は効いてねぇ!」


「……分かっています」


「なら、頭を冷やせ!」


「冷静ですよ」


 ユノはいつものように笑おうとした。


 だが、その口元は僅かに震えていた。


「クックックックッ……」


 ゼインは、その変化を見逃さない。


「自分の知らないところで仲間が死んでいて」


 レイスの銃口が、ゆっくりとユノへ向けられる。


「帰ってきたら、独りぼっちとは……」


 ユノが握る《燈環》の金属環が、小さく鳴った。


「ククク……」


 ゼインの笑い声が、次第に大きくなる。


「クッハハハハハッ‼」


「いやぁ、滑稽だぁ!」


 ユノの細い目が、完全に開かれる。


「弱いというのは、罪深いですねぇ」


「……黙れ」


 《燈環》の先端から、赤い炎が溢れ出す。


「黙れぇ!」


 ユノは錫杖を両手で構え、その先端をレイスへ向けた。


「《灼火》!」


 金属の環が激しく鳴り響く。


 環の中心で赤い炎が渦を巻き、少しずつ圧縮されていった。


 格納庫の温度が一気に跳ね上がる。


 先ほどの《火撃》とは、比べものにならない熱量。


 だが、その力を放つには、僅かな溜めが必要だった。


「あと少し……!」


「ほう」


 ゼインの声に、僅かな感心が混じる。


「先ほどまでとは違うようですねぇ」


 レイスの毒液銃がユノへ向けられる。


「ですが――」


 銃口が紫色に光った。


「遅い」


 毒液が、一直線にユノへ放たれた。


「糸目!」


 ログが横から飛び込む。


 振り抜かれた《崩槌》が、迫る毒液を横殴りに弾き飛ばした。


 バシャッ――!


 毒液の軌道が逸れる。


 ユノへの直撃は避けられた。


 しかし、弾かれた毒液はその足元へ降り注いだ。


 ジュウゥゥゥッ――!


「っ……!」


 床の鉄板が白煙を上げ、見る間に溶けていく。


 ユノの集中が途切れた。


 《燈環》の先端へ集められていた炎が形を失い、赤い火の粉となって四散する。


「離れろ!」


 ログが叫ぶ。


 ユノは《燈環》を床へ突き、跳び退こうとする。


 だが。


 ミシッ――。


 錫杖を突いた床ごと、大きくひび割れた。


 次の瞬間。


 溶けた鉄板が崩れ落ちる。


「ユノ!」


 ログが手を伸ばした。


 ユノも《燈環》を手放し、必死に腕を伸ばす。


「ログ先輩!」


 二人の指先が触れた。


 だが、掴めない。


「ユノォォォッ!」


 初めて。


 ログは彼を、糸目ではなく名前で呼んだ。


 ユノの身体と《燈環》は、崩れた鉄板と共に深い地下へと飲み込まれていった。

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