陽炎
ゼインの言葉に、ユノは静かに構えを解かない。
「興味ありません。」
「そう言わずに。」
レイスが大鎌を肩に担ぐ。
「先日のガイスト襲撃……実に愉快でした。」
その一言に、ユノの表情が僅かに曇る。
「火属性部隊。確か……バルガス隊でしたか。」
ログが顔をしかめた。
「おい、糸目。」
「大丈夫です。」
ユノは前を見据えたまま答える。
しかし、その声はいつもより少しだけ低かった。
「最後まで街を守ろうと必死でしたねぇ。」
ゼインは愉快そうに続ける。
「傷だらけになっても立ち上がり、仲間を庇い、命を懸けて戦う。」
「実に感動的でした。」
少し間を置いて、口元を吊り上げる。
「ですが――全員死んだ。」
格納庫の空気が凍り付く。
「……取り消してください。」
ユノが静かに言う。
「おや?」
「仲間を侮辱する言葉は聞き流せません。」
「侮辱?」
ゼインは肩を震わせた。
「私は事実を言っただけですよ。」
「あなた達は守れなかった。」
「何一つ。」
ユノは拳を握り締める。
「ログさん。」
「乗るな。」
ログは短く言った。
「こいつは、お前を怒らせたいだけだ。」
「……分かっています。」
それでも、ユノは一歩前へ出る。
「ですが。」
静かに息を吸う。
「仲間を馬鹿にされたまま黙っていられるほど、私は大人じゃありません。」
橙色の魔力が全身を巡る。
「活火」
身体が熱を帯びる。
続けて、青白い炎が周囲に浮かび上がった。
炎が輪を描き、ユノの周囲を旋回する。
「陽炎。」
その瞬間。
ユノの姿が揺らいだ。
熱で空気が歪み、一瞬でレイスとの距離を詰める。
「速いですねぇ。」
ゼインは驚くどころか笑っていた。
ユノはレイスの懐へ潜り込む。
旋回する炎輪が一斉に加速した。
「火撃!」
炎輪が一直線に撃ち出される。
轟音と共に爆炎がレイスを飲み込んだ。
熱風が格納庫を吹き抜け、周囲のフェルギアまで揺らす。
ログは思わず目を細めた。
「やったか……!」
やがて炎が晴れる。
そこに立っていたのは――
「クックックックッ……。」
レイスだった。
装甲は煤で黒く汚れただけ。
傷一つ付いていない。
「そんな……。」
ユノの目が見開かれる。
「終わりですか?」
ゼインは退屈そうに首を傾げる。
「せっかく感情を露わにしたというのに。」
「期待外れでしたねぇ。」




