昔話
紫色の液体が、唸りを上げて迫る。
「散れ!」
ログの声に、二人は左右へ跳んだ。
液体が床へ叩きつけられる。
ジュウゥゥッ――。
白煙と共に、分厚い鉄板が見る間に溶けていった。
「毒液……というより、腐食液ですかねぇ」
「触れたら終わりってことだろ!」
ログは《崩槌》を両手で握り、地面を蹴る。
一気にレイスとの距離を詰めた。
「正面から来ますか」
「クックックッ……実に単純!」
大鎌が振り下ろされる。
ログは《崩槌》を横に構え、その一撃を受け止めた。
ガァンッ!
激しい金属音が格納庫を揺らす。
「ぐっ……!」
ログの足元が僅かに沈む。
人より一回り大きいだけとはいえ、機械の腕力は人間のそれを遥かに上回っていた。
「どうしました?」
「羽虫が踏ん張っている姿は、滑稽ですねぇ!」
「よく喋る鉄人形だな!」
「フェルギアです!」
「どっちでもいい!」
ログは《崩槌》を捻り、大鎌を外側へ弾く。
「ユノ!」
「分かってますよ!」
ログの背後から、三つの青白い狐火が飛び出した。
狐火は弧を描き、レイスの頭部と両脚へ迫る。
「おや」
レイスは大きく後ろへ跳んだ。
狐火が床へぶつかり、青白い炎が広がる。
その炎を突き破り、ログが飛び込んだ。
「もらった!」
《崩槌》を横薙ぎに振るう。
だが。
「クックックッ……」
レイスの左腕が、ログではなく床へ向けられていた。
「足元がお留守ですよぉ」
毒液が放たれる。
「ログさん、下!」
「ちっ!」
ログは咄嗟に槌を床へ叩きつけ、その反動で後方へ跳んだ。
直後、立っていた場所が溶け落ちる。
鉄板の下に広がっていた暗い空間が、一瞬だけ覗いた。
「下にも何かあるな」
「随分と深そうですねぇ」
二人が穴へ視線を向けた、その隙をレイスは見逃さない。
大鎌が横一文字に振るわれる。
「糸目!」
ログがユノの腕を掴み、強引に引き寄せた。
刃が二人の鼻先を通り過ぎ、背後の鉄柱を切り裂く。
「危ないですねぇ」
「礼ぐらい言え!」
「あとでまとめて言いますよ!」
二人は距離を取り、互いの背中を合わせた。
レイスは追ってこない。
大鎌を肩へ担ぎ、楽しそうに二人を眺めている。
「クックックッ……」
「なるほど。多少は連携できるようですねぇ」
「だったら、さっさと降参したらどうだ?」
「降参?」
ゼインの声に、愉悦が滲む。
「まさか」
「私はまだ、あなた方がどのように壊れるのかを見ていない」
レイスの銃口が、今度はユノへ向けられた。
「まずは、その余裕ぶった顔から崩して差し上げましょうか」
「……やってみてくださいよ」
ユノの周囲で狐火が揺れる。
その声はいつも通り柔らかい。
だがゼインは、その奥に潜むものを探るように笑っていた。
「クックックッ……」
「では、少し昔話でもしましょうかねぇ」




