フェルギア レイス
ログとユノは、薄暗い通路を駆け抜けていた。
背後から追ってきていた鉄人形の足音が、不意に止まる。
「……追ってきませんねぇ」
ユノが振り返る。
通路の奥。
赤い目を光らせた鉄人形たちは、入口の前で整列したまま動こうとしない。
「追う必要がなくなったんだろ」
ログは《崩槌》を握り直した。
「この先に、もっと厄介なのがいる」
二人が辿り着いたのは、広い格納庫だった。
高い天井。
壁際には、動きを止めた鉄人形が何体も並んでいる。
その中央に、一体だけ異様な機体が立っていた。
人より一回りほど大きい。
深い紫色の装甲。
細身の身体に、巨大な大鎌。
反対の手には、細長い銃が握られている。
「……あれも、鉄人形ですかねぇ」
「普通の奴とは違いそうだな」
ログが一歩前へ出る。
その瞬間。
「クックックックッ……」
機体の中から、不気味な笑い声が響いた。
二人は同時に身構える。
ガシャン――。
紫の機体の胸部装甲が、左右へ開いた。
「……え?」
ユノの細い目が、僅かに開く。
装甲の内側には、一人の男が座っていた。
「人が……乗っている?」
「鉄人形を中から動かしてんのか」
ログも驚きを隠せない。
男は二人の反応を見て、満足そうに口元を歪めた。
「クックックックッ……」
「鉄人形とは、随分と野蛮な呼び方をしますねぇ」
「じゃあ、なんて呼ぶんだよ」
「フェルギア」
男は誇らしげに機体の装甲へ手を添えた。
「ヴォルグが誇る、人型機動兵器ですよぉ」
「フェルギア……」
ユノがその名を繰り返す。
「そうです!」
男は芝居がかったように両手を広げた。
「そして、こちらはそこらの量産機とは訳が違う!」
「私のような選ばれた人間にのみ与えられる、専用機なのですよぉ!」
紫のフェルギアの単眼が、赤く輝く。
「階級が高いだけの無能どもとは、訳が違うのです!」
「クックックックッ……!」
「自分で選ばれたとか言う奴に、まともなのはいねぇな」
ログが吐き捨てる。
「おやおや。羨ましいのですか?」
「どこをどう聞いたらそうなるんだよ」
男は愉快そうに肩を揺らした。
「ヴォルグ軍中佐、ゼイン」
胸部装甲がゆっくりと閉じていく。
「そして、私の愛機――《レイス》」
ガシャン、と重い音が響いた。
レイスが大鎌を持ち上げる。
刃が床を擦り、甲高い音を格納庫へ響かせた。
「覚えておきなさい」
「あなた方を、惨めに這いつくばらせる者の名ですからねぇ」
ログは《崩槌》を構える。
「ユノ。あいつの話に付き合ってる暇はねぇ」
「同感です」
ユノの周囲に、青白い狐火が浮かび上がる。
レイスの銃口が、二人へ向けられた。
「クックックックッ……」
「では、羽虫らしく逃げ回ってください」
「すぐに、その羽を捥いで差し上げますよぉ」
次の瞬間。
銃口から紫色の液体が放たれた。




