↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
工場国家ヴォルグ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/467

分断

 ランタンの中で、淡い光が弱々しく揺れていた。


「……すぐに出します」


 レテが一歩近づく。


 その瞬間、ディーネが大きなヒレを広げ、彼女の前へ回り込んだ。


「ディーネ?」


 触れるな。


 そう制止されているように感じた。


 レテは足を止め、ランタンの中の光へ意識を向ける。


 恐怖。


 苦痛。


 そして――強い拒絶。


「……壊さないで」


 レテの口から、自然と言葉が漏れた。


 三人の視線が、一斉に彼女へ向く。


「今、何と?」


 アーヴェルが尋ねる。


「この精霊たちが、壊さないでって……」


「精霊が話したのか?」


 ログが訝しげに眉を寄せた。


「いえ、声が聞こえたわけではありません。ただ、そう言っているように感じて……」


「感じた、ですか」


 ユノの細い目が、僅かに開く。


「感情を読み取るというより、随分とはっきりしていますねぇ」


「はい。私も、少し変だと思います」


 契約精霊であるディーネの気持ちなら、仕草や長い付き合いから分かる。


 だが、目の前にいるのは契約を交わしていない精霊だ。


 それなのに、その意思が言葉のように頭へ流れ込んできた。


「オーズィラに、そんな力があったのか?」


 アーヴェルも警戒を滲ませる。


「分かりません。今までは、こんなこと……」


 レテは言葉を止めた。


 淡い光から、新たな感情が伝わってくる。


 焦り。


 怯え。


 自分たちへ向けられた、強い警告。


「ここから離れて」


「また分かったのか?」


 ログの表情から軽さが消える。


「はい。この精霊たちは、私たちを逃がそうとしています」


「壊せば、何かが起きるということでしょうか」


「それだけではありません」


 レテは部屋の中を見回した。


「最初から、ここへ近づいてほしくなかったみたいです」


 ユノがランタンの並びへ目を向ける。


「つまり、これは――」


「罠だ」


 アーヴェルが低く告げた。


「全員、扉へ戻れ」


 その直後。


 ガシャンッ!


 背後の扉が勢いよく閉まった。


「遅かったか!」


 ログが駆け寄るが、扉はびくともしない。


 さらに床の一部が沈み、倉庫の中央から分厚い鉄壁がせり上がった。


「隊長!」


「スミスマン!」


 轟音と共に、四人の間が遮られる。


 レテとアーヴェル。


 ログとユノ。


 二組に分断された。


「そちらは無事か!」


 アーヴェルが鉄壁へ声を張る。


「俺と糸目は無事です!」


「今は名前で呼んでくださいよ!」


「元気そうだな」


 アーヴェルは短く息を吐く。


 次の瞬間、天井へ埋め込まれていた赤い灯りが一斉に点いた。


『侵入者を確認』


『隔離完了』


『捕獲行動へ移行します』


 倉庫の奥で、複数の赤い眼が灯る。


 フェルギアたちがゆっくりと立ち上がり、四人のいる方向へ歩き始めた。


「捕獲?」


 レテが湾曲刀へ手を伸ばす。


「戦うな、オーズィラ」


 アーヴェルが制した。


「ですが――」


「この部屋そのものが罠だ。ここで戦えば、さらに何を作動させるか分からん」


 アーヴェルは鉄壁とフェルギアの位置を素早く確認する。


「目的は敵の撃破ではない。脱出して合流する」


「分かりました」


 鉄壁の向こうから、ログの声が響く。


「隊長、こっちはどうします!」


「別の出口を探せ! 戦闘は避けろ!」


「了解です!」


「フェルメル、スミスマンを頼む」


「むしろ僕が頼まれる側なんですかねぇ!」


「おい、どういう意味だ!」


 二人の声が遠ざかっていく。


 すでに移動を始めたらしい。


「我々も行くぞ」


 アーヴェルが倉庫の奥へ視線を向ける。


 正面の扉は閉ざされている。


 だが、壁際には荷物を運び出すための細い搬送路があった。


 フェルギアの一体が腕を伸ばす。


 指先から鉄線が射出され、レテの足元へ突き刺さった。


「捕まえようとしている……」


「だからこそ、捕まるわけにはいかん」


 アーヴェルが大剣の腹で鉄線を弾く。


 倒すためではない。


 追手の動きを一瞬だけ止めるための一撃。


「オーズィラ、走れ!」


「はい!」


 レテはディーネと共に搬送路へ駆け込んだ。


 その後を、アーヴェルと玄甲が追う。


 背後から機械の足音が迫る中、レテは一度だけランタンを振り返った。


 淡い光が激しく揺れている。


 早く。


 逃げて。


 その意思が、またはっきりと伝わってきた。


「……どうして、私に」


 疑問への答えはない。


 今はただ、逃げるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。