地下へ③
足元へ降り立つと、冷たい水が靴底を濡らした。
膝下ほどの深さはない。
だが、油の混じった濁りが水面に浮かび、鼻を刺す臭いを放っている。
「足元に気をつけろ」
先に降りていたアーヴェルが小声で告げた。
その隣では、玄甲が何事もなかったようにじっと佇んでいる。
続いてユノが梯子を降りてきた。
「これはまた、随分と歓迎されていますねぇ」
「臭いのことなら同感だ」
最後にログが降りてくる。
「上、戻しときます」
ログは梯子へ手をかけ直し、ずらした鉄板を元の位置へ戻していく。
やがて頭上から差し込んでいた光が消え、辺りは完全な闇に包まれた。
「キュウ」
ユノが呼ぶ。
すぐそばで、淡い火が一つ灯った。
ぼんやりと照らされた先には、湿った石壁と、何本もの太い配管。
奥へ進むほど、低い機械音が大きくなっている。
「明るくしすぎるな」
「分かっていますよ」
ユノは光を小さく抑えた。
四人は水音を立てないよう、ゆっくりと進み始める。
レテの隣では、ディーネが落ち着かない様子でヒレを揺らしていた。
「まだ感じるのか?」
ログが声を潜める。
「はい」
レテは前を見たまま頷く。
「この先にいます」
「どのくらいだ?」
「分かりません。でも……多いです」
アーヴェルが足を止める。
通路の先を塞ぐように、鉄格子が設けられていた。
太い鎖と錠。
その向こうには、軍施設へ続く細い通路が伸びている。
「スミスマン」
「はい」
ログが前へ出る。
鉄格子の前へしゃがみ込み、錠へ手を添えた。
「脆化」
茶色の光が、ゆっくりと錠を包み込む。
音はほとんどない。
金属だけが、少しずつ形を崩していく。
「よし。」
ログが呟く。
「意外と器用ですぬ」
「うるさいぞ、糸目」
「二人とも静かにしてください」
レテが小声で窘める。
ほどなくして。
崩れた錠が、水の中へ落ちた。
小さな音が、暗い通路へ響く。
アーヴェルが鉄格子へ手をかける。
「ここから先は敵地だ」
全員の表情が引き締まった。
「証拠の確保を優先する。精霊の救出は、状況を見て判断する」
「了解です、隊長」
アーヴェルがゆっくりと鉄格子を押し開く。
その先から、さっきよりも強い精霊の気配が流れ込んできた。
レテは思わず胸元を押さえる。
「……近いです」
ディーネも同じ方向を見つめていた。
助けを求める気配は、もうすぐそこまで迫っていた。




