地下へ②
レテは石畳へ触れたまま、意識を地下へ沈めていく。
水の流れは細い。
けれど、確かに軍施設の方角へ続いていた。
「この先です」
レテが顔を上げる。
「地下の水路が、施設の中まで繋がっています」
「入口はここか」
アーヴェルが積み上げられた鉄板を見る。
「たぶん、この下です」
「なら退かすしかねぇな」
ログが前へ出た。
「アルゴス」
呼びかけに応じて、赤茶色の牛がログの隣へ並ぶ。
静かに蹄を鳴らすと、淡い光がログの両腕を包んだ。
「少し下がっててください」
三人が距離を取る。
ログは一番上の鉄板へ両手をかけた。
「ふっ……!」
鈍い音を立てながら、鉄板がゆっくりと持ち上がる。
そのまま横へずらし、地面へ下ろす。
「相変わらず力がありますねぇ」
ユノが感心したように言う。
「相変わらずは余計だ、糸目」
「褒めたつもりなんですけどねぇ」
「スミスマン。まだ下にある」
「はい、隊長」
ログは次の鉄板へ手をかけた。
数枚を退かすと、その下から四角い穴が現れる。
地下へ続く鉄製の梯子。
冷たく湿った空気と一緒に、濁った水の臭いが上がってきた。
「うわ……」
ログが顔をしかめる。
「これは酷ぇな」
「排水路ですからねぇ」
ユノも鼻元を袖で覆った。
レテは穴の縁へ近づき、暗闇を覗き込む。
底までは見えない。
けれど、下から聞こえる水音は、先ほど感じ取った流れと同じものだった。
「間違いありません」
レテが言う。
「ここから入れます」
「分かった」
アーヴェルは穴の前へ立つ。
「私が先に降りる」
「隊長、俺が行きます」
「いや」
アーヴェルは静かに首を振った。
「先頭は私が務める」
「……了解です、隊長」
アーヴェルは足元を見る。
「玄甲」
鉄の亀が、ゆっくりと穴の縁まで歩いてきた。
暗闇を一度覗き込み、そのまま躊躇なく身を滑らせる。
直後。
ガァンッ!
地下から重い音が響いた。
「落ちましたよね?」
レテが心配そうに尋ねる。
「問題ない」
少しして。
カン、カン。
下から金属音が二度返ってくる。
「周囲に敵はいないそうだ」
「今ので分かるんですか?」
「ああ」
アーヴェルは梯子へ足をかけた。
「オーズィラ、フェルメル、スミスマンの順で続け」
「はい」
アーヴェルの姿が暗闇へ消えていく。
レテも梯子へ手を伸ばした、その時。
ディーネが彼女の前へ回り込んだ。
大きなヒレを落ち着かない様子で揺らしている。
「……どうしました?」
レテが問いかける。
ディーネは穴の奥を見つめたまま、レテの腕へ身体を寄せた。
その反応だけで分かった。
地下にいる。
精霊たちが。
しかも、一体や二体ではない。
「大丈夫です」
レテはディーネへそっと触れる。
「必ず助けます」
ディーネは大きなヒレを一度だけ広げた。
レテは息を整え、暗い穴の中へ降りていった。




