地下へ
「……ところで」
路地を進みながら、ユノが後ろを振り返った。
「リオネルさん、本当に馬車に置いてきてよかったんですか?」
「まぁ、使い物にならなさそうだったからな」
ログが肩をすくめる。
「馬の速度を上げたのが駄目だったみたいですね」
レテが申し訳なさそうに呟いた。
ヴォルグへ到着した直後。
馬車から降りようとしたリオネルは、御者台へ手をついたまま動けなくなっていた。
何とか立ち上がろうとしたものの、足元はふらつき、顔色も真っ青。
本人は「問題ありません」と言い張っていたが、とても任務へ同行できる状態ではなかった。
「アクアリス殿には、御者の護衛を任せてある」
先頭を歩くアーヴェルが静かに言う。
「体調が戻れば合流できるよう伝えてある。心配はいらん」
「安心しました」
ユノがほっと息をついた。
「でも、あのリオネルさんが乗り物酔いするなんて意外でしたねぇ」
「意外でも何でもねぇよ」
ログが苦笑する。
「最後の方なんか、目ぇ回してたじゃねぇか」
「スミスマン」
「はい、隊長」
「本人の前では口にするな」
「……了解です」
レテは思わず小さく笑った。
「でも、無理をしていたんでしょうね」
「ああ」
アーヴェルは短く頷く。
「アクアリス殿は責任感が強い。任務を優先しようとする」
「だからこそ、今は休んでもらった方がいい」
三人も黙って頷いた。
その時だった。
レテの隣を泳いでいたディーネが、不意に動きを止める。
大きなヒレをゆっくりと揺らし、一つの方向を見つめていた。
「……ディーネ?」
レテが足を止める。
ディーネは何も言わず、そのまま細い路地の奥へ泳いでいく。
「どうしたんですか?」
ユノが尋ねる。
「分かりません。でも、何か感じたみたいです」
レテはディーネの後を追う。
アーヴェルも無言で頷き、三人は警戒しながら後に続いた。
やがて路地の突き当たりへ辿り着く。
そこには、錆びた鉄板や廃材が山のように積み上げられていた。
ディーネはその前で止まり、大きなヒレで鉄板の下を指し示すように何度も叩いた。
「……この下です」
レテは静かにしゃがみ込み、石畳へ手を添える。
冷たい水の流れ。
地下を流れる水路が、この真下を通っていた




