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神様、その聖号は返品できますか?~貧乏くじ王女、嫁いだ先は竜が住まう国でした~  作者: みつまめ つぼみ
第3章 竜が棲む山

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第15話 竜姫

 聖竜が轟く声で私たちに告げる。


『あとはティルニアの指示に従うがいい。ただし、失敗すれば命の保証はない。その覚悟がある者だけが同行しろ』


 え、命懸け? それは聞いてなかったなぁ。私がフリードリヒ殿下に視線を送ると、殿下が頷いて聖竜に尋ねる。


「聖竜! ここに人を残しても問題ないか!」


 聖竜は目を細めてフリードリヒ殿下を(にら)み付けた。


『……いいだろう。戦えない者たちは私が預かろう』


 フリードリヒ殿下が部下たちに振り向いて告げる。


「全員、戦闘準備! 侍女たちはここで待機しろ!」


 カリンを見ると、身をすくめて(うなず)いているようだった。その視線が私と聖竜の間で往復する。まぁ、彼女にとっては怖いんだろうなぁ、聖竜。いいお爺ちゃんだと思うんだけど。私の周囲を飛び回るティルニアが元気な声で告げる。


『ではついて来てください! 伯爵がいる場所にご案内します!』


 伯爵? その人に会えばいいの? 妖魔退治は? 混乱する私をよそに、ティルニアがふよふよと山道を先に進んでいった。私は殿下と視線を交わし、(うなず)き合ってからティルニアの(あと)を追った。





****


 崖に挟まれた山道をしばらく歩きながら、辺りを見回していく。空には飛竜の姿があるけど、地上にはなにもない。生き物の気配そのものを感じなかった。


「殺風景な場所ね。こんなところに伯爵が住んでるの?」


 ティルニアがクスリと笑って答える。


『伯爵は妖魔のことです! この地には強大な力を持つ“伯爵級妖魔”が封印されています! みなさんにはそれを退治していただきます!』


 あ、同一人物だったのか。でも、変な感じ。


「ねぇティルニア、なんで妖魔が爵位なんて持ってるのかしら」


『妖魔の真名は、人間の魂を(けが)してしまう効果があります! 千年前の人間は、そんな妖魔を識別するために強さに応じて爵位で区別するようになりました! 人間の知恵ですね!』


 へー、千年前の人間が生み出した知恵か。でもそれなら、伯爵級ってそこまで強くないのかな? 上位貴族の中では下位にいる、くらいの意味だよね? 私が小首を(かし)げていると、ティルニアがこちらに振り向いて告げる。


『ちなみに、伯爵級はこの山くらいなら消し飛ばしてしまう力を持っています! 人間に勝ち目はありません!』


「ちょーっと待ったー! 今、なんて言ったの?!」


 そんな化け物、どうやって退治するの?! 思わずぎょっとして声を上げた私を見て、ティルニアが楽しそうに答える。


『ご安心ください! 今はお父様が伯爵の封印を支えています! 今ならまだ、そこまで力を解放することはできません!』


 私は胸をなでおろして息をついた。


「お、(おど)かさないでください。いきなり無理難題をふっかけられたかと思ったじゃないですか。でも、伯爵でそんなに強いなら、もっと上はどのくらい強いのかしら」


『魔王級になると、大陸全土が更地になります!』


 洒落になってない! なにそれ?! 千年前の人間、よく生き残ってたな?! ――あー、それで星竜神が妖魔を封印した、ということなのかなぁ?


「ねぇティルニア、星竜神は妖魔を倒すことはできなかったの? なぜ大地に封印しているの?」


『妖魔は倒してもしつこく復活してきます! ですので、その魂ごと大地に封印してしまうのが最善だと星竜神様はお考えになったのです!』


 う~ん、害虫みたいな存在なんだな……妖魔。ん? 魂?


「妖魔にも魂があるの?」


『はい! ありますよ! ――あ、ここが入り口です!』


 ティルニアが動きを止めた付近の岩壁に、二メートルちょっとの洞穴が口を開けていた。なかからは湿った空気が漂ってくる。フリードリヒ殿下が騎士たちに振り返って尋ねる。


「明かりの用意はあるか」


「いえ、取りに戻ります」


 騎士の一人が走り出しかけたのを、ティルニアが制止するように声を上げる。


『心配はいらないのです!』


 ティルニアの身体が突然輝き始め、目も開けていられないくらい辺りが光に包まれた。なんとか見える範囲でティルニアの姿を確認すると、光に包まれた彼女の姿がぐにぐにと変化していく。やがて小さい人影に変わった光が収まると、そこには一人の女の子が立っていた。白く長い髪の毛、ケープ付きの白い膝丈ワンピース、そして白いタイツに白いブーツ。ぜんぶファーがついていてもこもこだ。私は呆気に取られてティルニアだった女の子に尋ねる。


「あなた、それ……暑くないの?!」


 突然背後から男性が吹き出す声が聞こえた。もしや……案の定、フリードリヒ殿下が必死に笑いをこらえていた。


「……殿下? 何かありまして?」


 フリードリヒ殿下は私に向かって手のひらを向けて答える。


「なんでもない」


 でも殿下、笑いをこらえてるよね? なに? 何かおかしなことを言った? だってもう七月も中旬、こんな季節にこんな格好してたら、暑いでしょ? 私がフリードリヒ殿下を(にら)み付けていると、背後からティルニアの声が聞こえる。


「御心配には及びません! さぁ星の乙女(ラネティア)、中に入りますよ!」


 ティルニアが私の手を取り、洞穴の中に入っていく。私は手を引かれながら思わず尋ねる。


「ちょっと待って?! 明かりはどうするの?!」


 ティルニアはご機嫌な声で私に答える。


「ですから、問題ありません!」


 そう告げた彼女が片手を掲げると、その手の中に光の玉が浮かび上がった。いくつも生まれた光の玉が、私の周囲を漂って洞穴の中を照らし出す。道は下り坂になっているようだけど、歩けないほどじゃない。ティルニアは私の手を引いて、ぐんぐんと中に下りていく。フリードリヒ殿下が慌てた声でティルニアに告げる。


「待てティルニア! 俺たちが先行する!」


 ピタリ、とティルニアの足が止まった。振り返ったティルニアは氷のような眼差しでフリードリヒ殿下を(にら)み付けた。


「……人間、あなたに私の名を呼ぶことを許した覚えはありません。身を(わきま)えなさい」


 ひどく冷たい声で告げるティルニアを見て、フリードリヒ殿下たちが息をのんだ。私はおそるおそるティルニアに尋ねる。


「ティルニア? どうしちゃったの?」


 私の声で、ティルニアがパッと明るい笑顔で答える。


「なんでもありません! 星の乙女(ラネティア)は気になさらないでください!」


 あれ? 勘違いだった? 今のはなんだったの? 先に歩いていくティルニアに引っ張られる私と、その後ろから続くフリードリヒ殿下たち竜騎士隊が洞穴を下っていく。歩きながら、殿下が無機質な声でティルニアに尋ねる。


「では、どう呼べばいいのか」


 ティルニアは振り返らずに冷たい声で答える。


「そうですね、『竜姫(りゅうき)』とでもお呼びなさい」


 それを聞いて、私は驚いてティルニアに尋ねる。


「あなた、お姫様だったの?!」


「はい! 聖竜であるお父様の娘なので、人間で言えば姫に当たります! 星の乙女(ラネティア)と一緒ですね!」


 明るい声だなぁ……なんか調子狂っちゃう。


「ねぇティルニア、どうして私と殿下たちとで態度が違うのかしら」


「どうしてと言われても、私にもわかりません! 星の乙女(ラネティア)には優しくしたいと思いますが、私は人間が嫌いなので!」


 私は呆気にとられて足が止まった。


「……人間が、嫌いなの?」


 私につられて足が止まったティルニアが、笑顔で私に振り向いた。


「はい! 嫌いです! 戦争ばかりしている愚かな人間なんて、滅んでしまえばいいんです!」


 うわ、過激思考?! そりゃあ戦争は絶えないけども!


「じゃあ、どうして私のことは助けてくれるの?」


星の乙女(ラネティア)は特別ですから! そこに理由はないのです!」


 うーん、『竜に愛される』って奴なのかなぁ? でも、この性格はもうちょっと何とかしてあげたい。フリードリヒ殿下のことも、理解すれば打ち解けられると思うんだけど。


「ねぇティルニア、フリードリヒ殿下にくらい、名前を呼ぶことを許してあげられないかしら」


 ティルニアの眉間にしわが寄り、フリードリヒ殿下を(にら)み始めた。え、そこまで嫌なの?


「……わかりました。星の乙女(ラネティア)のお願いということなら、そこの人間にだけは許可します。ただし、むやみに名前を呼べば消滅させます」


 物騒だなぁ?! 消滅って、何をする気?! フリードリヒ殿下は小さく息をつくと、ティルニアに向かって静かに告げる。


「……感謝する」


 ティルニアは殿下に答えず、前を向いて歩き出した。……本当に人間が嫌いなんだな。私たちは光の玉に囲まれながら、長い洞穴を下っていった。


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